■水族館の水槽を実験水槽と考える

 思い切って言うと、私は野外フィールドでバリバリ調査していた頃は、水族館で飼育されているマンボウは、人の影響を強く受け、生態が変えられてしまっているため、研究の価値はあまりないと思っていた。

 しかし、働き始めてフィールドに行けなくなり、それでも何かしらのマンボウ研究を続けたいと考えた結果、水族館ならいつでもマンボウの行動を観察できるのではないかと思い立った。よくよく考えてみると、自然下でのマンボウの行動研究はどんどん活発化してきて、論文でその成果を知ることができる。その一方、飼育下のマンボウの行動研究は近年ほとんど行われておらず、飼育されているマンボウの行動データを取れば、野生個体のデータと比較できると考えた。それによって、どんな行動が野生と飼育で変わるのか、もしくは変わらないのかを見出すことができると閃いた。

 また、飼育個体は水族館の協力が得られれば、直接見て24時間マンボウの行動を観察することができる。水槽の中で成長していく過程を見て観察することができる。水族館は野外より危険な場所も少ないので、一般の人々も一緒に研究をすることができる。

 マンボウの飼育実験は大きな水槽がないとできないが……水族館の飼育環境は館によって異なるため、これを1つの実験水槽とみなし、複数の水族館で同じ行動観察調査を行えば、条件の異なる複数の水槽で実験したことと同等になる。考え方次第で、水族館は無限の研究フィールドとして活用できる、と改めて思い直したのである。本書はマンボウ研究を通じて、一般の人もできる水族館での研究の可能性についても強く説いている。気になった方は是非ポチっと推してくれると、重版を目指している私はうれしい。

【主な参考文献】澤井悦郎.2019.マンボウは上を向いてねむるのか: マンボウ博士の水族館レポート.ポプラ社.東京,207pp.

●澤井悦郎(さわい・えつろう)/1985年生まれ。2019年度日本魚類学会論文賞受賞。著書に『マンボウのひみつ』(岩波ジュニア新書)、『マンボウは上を向いてねむるのか』(ポプラ社)。広島大学で博士号取得後も「マンボウなんでも博物館」というサークル名で個人的に同人活動・研究調査を継続中。Twitterで情報発信・収集しつつ、来年以降もマンボウ研究しながら生きていくためにファンサイトで個人や企業からの支援を急募している。