■責任感の裏返しとして、たまるモヤモヤ

「両立疲れ」については、「イクメンブルー」「イクメンタル」などの表現に近いのかもしれません。取材で出会う父親の多くは、家庭で夫として、親として、役割を果たしたいという思いを強く持っていました。一方で、仕事に対しても責任感が強く、両者をうまく成り立たせようとしていました。誠実。そんな言葉がふさわしい方ばかりでした。

 こうした責任感の裏返しとして、「両立疲れ」は「妻に言えない夫の本音」という形で父親の胸のうちにしまわれます。

■奇異の目、過剰な称賛にもモヤモヤ

「特別視への違和感群」の代表的なケースについて紹介します。

 生活の一部として自然に子育てに携わっているのに、周囲からは珍しいものと受け止めれられる。本人たちは、奇異の目で見られたり、過剰と感じる称賛を受けたりして、「イクメン」という言葉に違和感を覚えます。

 父親が育児の主体とみなされずに疎外感を覚える。そんな声が取材班に寄せられました。共働きの30代夫は、泣く子どもをあやしていたら近くの警備員を呼ばれたと言います。健診の度に保健師らに「お母さんはいませんか?」と尋ねられ、男女共用のおむつ交換台では女性に嫌な顔をされたそうです。

「イクメン」という言葉が「新語・流行語大賞」のトップ10入りを果たしてから10年が経ちました。当時の父親たちが、「イクメン」という言葉で意識改革を求められた第一世代とすれば、その世代が前進させた社会の中で価値観を醸成された第二世代の中には、まるで英語を母国語とする人が英語を話すように、「男は仕事、女は家庭」のような固定観念とは縁遠い父親もいます。そうした人にとっては、「イクメン」という言葉は、違和感でしかないのでしょう。