そもそも何を「標準」とするのか。日本には治療のガイドラインがないのも問題だ。

「不妊治療の初期段階であるタイミング法や人工授精には、それほど技術は必要ありませんが、体外受精は医師や施設によって技術の差が歴然です。ガイドラインの作成に加え、欧米のように、各施設の治療実績やOHSS(卵巣過剰刺激症候群)などの有害事例を、国や第三者機関が管理するべきです」(小柳医師)

 アメリカでは学会とCDC(米疾病対策センター)が連携して、各施設の成績がネットで公開されているという。

 不妊治療への保険適用によって、この残念な状況は変わるのか。

 小柳医師は、「適用に向けた流れで、ガイドラインができ、各施設のレベルを監視する体制が整えば、結果的に改善されていくでしょう。金銭的理由から治療をためらう若い夫婦が不妊治療に踏み出しやすくなることも、大きなメリットでは」と話す。ただ、多くの専門家が指摘するように、治療に使われる薬が保険で認められないなどの理由から、「保険適用は混合診療が大前提」との立場だ。

 いずれにしても、保険適用の議論が、日本の不妊治療の現状を、ひいては社会を変えていく絶好の機会となることを期待したい。

(文・曽根牧子)

出典1:https://plaza.umin.ac.jp/~jsog-art/2018data_20201001.pdf

出典2:https://secureservercdn.net/198.71.233.47/3nz.654.myftpupload.com/wp-content/uploads/ICMART-ESHRE-WR2016-FINAL-20200901.pdf

【取材した医師】
小柳由利子医師
産婦人科医、不妊治療医。2006年福島県立医科大学医学部卒業後、町田市民病院、木場公園クリニック、東京大学分子細胞生物学研究所を経て、2015年から東京HARTクリニック勤務。医学博士。妊活・不妊治療に関する知識の啓発に取り組む。