その強さがハミルトンの卓越したドライビング技術にあることは言うまでもない。現在35歳のハミルトンだが、私生活ではヴィーガン(動物性食品を食べない人のこと。肉、魚を食べないベジタリアンよりも厳しく、卵や乳製品も食べない)を行うなど、健康管理を徹底しており、体力的な衰えはいまだ感じられない。

 したがって、現時点でハミルトン時代が終焉する兆しは見えない。もし、ハミルトン時代に終わりが告げられる時が来るとしたら、それはハミルトンが自ら引退する日が来る時か、現在最強と言われるメルセデスがF1から撤退するかのいずれかしか考えられない。

 そのような状況になった時、ハミルトンに代わってF1界をリードすることになるとしたら、それは現在レッドブル・ホンダを駆るマックス・フェルスタッペンだろう。

 22歳でF1デビューしたハミルトンが23歳となった2008年まで挙げた勝利数は9勝。現在23歳のフェルスタッペンの勝利数は同じ9勝。もし、フェルスタッペンが今後も確実に勝利を重ねていき、ハミルトン引退後にF1界に君臨するような活躍を見せれば、ハミルトンの記録に近づく可能性は十分考えられる。

 さらに、未来のF1ドライバーたちの中にも、ダイヤモンドの原石はいる。アイフェルGPで91勝目を達成したハミルトンに、シューマッハのヘルメットをプレゼントしたのは、シューマッハの長男のミック・シューマッハだった。現在、FIA F2で選手権首位のミック・シューマッハは来年F1にステップアップしようとしている。

「自分が、最多勝記録に近づく日が来るなど、想像もしなかった。だって、それはF1にデビューする前の僕とっては夢のような数字だったからね。でも夢というのは叶うものなんだね」と語ったハミルトン。

 今、F1は新しい扉を開けようとしている。その先にどんな時代が待っているのか。それは13年前にハミルトンが現在の姿を予想できなかったように、まだ誰も想像できない。(文・尾張正博)