入試改革にコロナ禍がかさなり、大きく揺れる来年の大学入試。休校による学習の遅れや、それに伴う共通テストの日程追加、英語の民間試験導入をめぐる混乱など、高校や受験生は翻弄されている。現在発売中の『AERA English 2020 Autumn&Winter』では、現場の声を取材した。

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 コロナ禍の休校により高校3年生の学業に遅れが生じたことなどを受け、文部科学省は個別試験での出題範囲の工夫などを大学側に要請した。入試問題の出題範囲への配慮については、大学によって対応が分かれている。たとえば東京大は7月31日に記者会見を開き、個別試験の出題範囲で「特別な配慮をしない」と発表した。対照的に大きく試験を見直したのが横浜国立大。大学に受験生を集めて行う試験を中止し、共通テストの成績などで合否を判断するとした。

 休校期間中、各自治体や高校に委ねられた生徒たちの学習サポートは、学校によって差が出たようだ。

 ある県の教育委員会に勤める男性によると、その県では学習支援ソフトを導入したが、すべての家庭にインターネット環境があるわけではない、教員が使いこなせない、という問題に直面した。「けっきょく課題プリントを自宅に郵送する方法が一番確実だった」と言う。

 また、都内の私立中高一貫校で英語を教える布村奈緒子さんは、「日本のICT化の遅れが露呈した」と指摘する。この3月まで都立高校で勤務していた布村さんは、私立と公立との差を実感したという。

 布村さんによると、都立高校の多くはWi-Fiの環境が整っておらず、デジタル化した教科書もセキュリティーの問題で、教室内でしか使えない。そのため教員が学校や自宅から多くの生徒に一斉にオンライン授業を配信するのは不可能に近いという。一方、布村さんの勤める私立校ではすぐにオンライン授業の体制が整えられ、ほぼ滞りなく実施された。 

「休校期間中、教員と生徒がいかに密にコミュニケーションできていたかも重要です。不安などの心理面は受験にも影響するのではないかと心配しています」(布村さん)

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稲田砂知子
稲田砂知子

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