思わず「すいません」と謝った藤井だったが、その裏、マウンドに上がると悔しさがこみ上げ、目から涙が溢れはじめた。感情のコントロールが利かなくなった藤井は、先頭の江藤智に左越えソロを浴び、松井秀喜、清原和博に連続四球。さらに高橋由伸に死球を与え、無死満塁となったところで無念の降板。試合はヤクルトが8対4で勝ったものの、後味の悪さも残った。

 試合後、藤井は「僕が球界の暗黙の了解を知らなかったから。点差があるときは、打ったり、全力疾走はしないもんなんですね」とコメントしたが、ヤクルトの公式ホームページに「全力で野球をやって何が悪い」と藤井を擁護する意見が相次ぎ、巨人の球団本部にも「そういったマナーがあるのか?」「正々堂々と戦ってほしい」などの抗議が寄せられた。

 今年8月26日の同一カードでも、8対2とリードした巨人が、8回1死一、二塁から重盗を成功させたシーンが「マナー違反」の指摘を受けるなど、“野球界の不文律”の問題は今でもくすぶりつづけている。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2019」(野球文明叢書)。

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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