■「見えない」を「見える」にするのが教育だ

 松尾先生は語る。

「わたしが倫理学を教えるときに子どもたちに必ず伝えることがあります。それは、この世界を支えているのは、目に見えないものであるということ。たとえば、憲法も条約も紙に書かれているけれど、それらは実体のないものですよね。わたしたちの世界にはいろんな『目に見えないもの』がケーブルのように張り巡らされています。その『見えないもの』を『見える』ようにすることが教育である。わたしはそう思っています」

 わたしは「意識高い系」という表現があまり好きではない。社会的な諸問題に対してアンテナを張っている人たちを揶揄するようなニュアンスが含まれているからだろう。しかし、今回の取材で感じ入ったのは、ひとりの顧問のもとに集う男子生徒たちの「意識の高さ」である。それは、彼らが社会部の活動を通じて、松尾先生のことばに耳を傾け、それまで意識しなかった目に見えない問題が少しずつ見えてきたからこそ生まれたにちがいない。

 本郷の社会部の活動の幅は拡大の一途をたどることだろう。どのような傑物が輩出していくのか。これからも注目である。

※本郷中学校高等学校・社会部webサイト
https://hongosocialstudiesclub.localinfo.jp/

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矢野耕平

矢野耕平

矢野耕平(やの・こうへい)/中学受験専門塾スタジオキャンパス代表・国語専科 博耕房代表。1973年生まれ。著書に『令和の中学受験 保護者のための参考書』(講談社+α新書)、『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』『男子御三家 麻布・開成・武蔵の真実』(ともに文春新書)、『LINEで子どもがバカになる「日本語」大崩壊』(講談社+α新書)、『旧名門校 VS 新名門校』(SB新書/SBクリエイティブ)、『早慶MARCHに入る中学高校』(朝日新書)など多数。

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