■他人の靴を履ける人間になれ

 松尾先生はどのような思いでこの社会部に携わっているのだろうか。

「社会部で活動して、世の中の仕組みを学んだ子たちは、率直に言って『稼げる子』になりますよ。卒業生たちは名だたる企業に就職していますしね。でも、そんなことが目的ではない。彼らがそれを世の中にどう還元していくかが大切です。わたしはこの社会部の活動を通じて『他人の靴を履ける』人間になってほしいと考えています」

「他人の靴を履ける」人間とはどういうことだろうか。松尾先生は続ける。

「つまり、他者に共感できる力を培うということです。その能力があればどこに行こうが人々から求められる人間になると思います。ですから、わたしが社会部で許さないのは『差別と偏見』です。人種、性に関することなど……。もし彼らに差別的な言動が見られれば、わたしはボコボコに叱りつけるよと伝えています。これだけが社会部のルールです」

 社会部の卒業生は、松尾先生のこの思いをくみ取っている。

 先に紹介した田島さんは、本業に励む傍ら、子どもの居場所づくりを担う団体の運営に携わっているという。大学時代にこの運営団体を立ち上げたという。

「社会部として活動していくなかで、人間にとってのコミュニティーの大切さなどを考えさせられました。この部活動の経験がなければ、子どもの居場所づくりに関わることはなかったでしょうね」

 そのほか、社会部出身の卒業生たちは、学生時代にNPO団体を立ち上げたり、起業したりとそれぞれの社会的使命を持って活動している人が多いという。中には学生でありながら、エンジェル(投資家)として世界を股にかけて活躍している人材も送り出しているという。

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