ですから、中国はこれらの国々には経済支援と医療支援を並行して行うだろうと僕は予測しています。とりわけ医療支援は全国民に関係のあることですから、親中感情の醸成にはきわめて効果的です。アメリカが身動きとれないときに、「今がチャンス」と友好国づくりを進めてゆくわけです。

 アメリカがきついのは、「鎖国」が軍事行動にまで及んでいることです。アメリカ海軍の原子力空母「セオドア・ルーズベルト」が新型コロナに集団感染して、6月に作戦行動を中止して帰港したという事件がありました。

岩田:空母のような環境は、感染症とかなり相性が悪いんですよね。

内田:軍艦というのは、狭い空間に斉一的な生活様式を共有する大量の兵士を詰め込むわけですから、最も感染リスクが高い環境です。となると、今後、空母や戦艦の運用にかなり規制がかかることになる。「いつ使い物にならなくなるか、わからない」という条件で海軍の作戦行動を考えなければいけなくなる。となると、これまでのような通常兵器による戦争は難しくなるということです。

岩田:原子力潜水艦も感染症に弱いです。原潜は感染対策には一番難しい場所で、あそこでアウトブレイクが起きたら為すすべもありません。

内田:ああ、そうですね。原潜のリスクはクルーズ船どころじゃないですね。そうなると、空母も使えない、原子力潜水艦も使えない。アメリカは国防戦略を一から書き換えなければいけなくなります。 

 21世紀に入ってからも、SARS以後、数年に一度、新しいタイプの感染症が流行しています。それほどの被害をもたらさずに収束する場合と、今回のように非常に大きな影響を与える場合がある。どの程度の毒性の強いウイルスが、どういう間隔で、どこで発生するか、予測できないわけです。おそらくパンデミックは、少なくとも10年おきぐらいに今後も繰り返し来る。人獣共通感染症は、人間たちが経済成長を求めて環境破壊をし続ける限り、止まらない。

次のページ