そもそも、カーボンニュートラルはホンダだけに課せられたものではなく、世界の自動車メーカー共通の課題。ホンダと同様、F1に参戦しているドイツのメルセデスは、2039年までに完全にカーボンニュートラルとなることを目標としているものの、F1活動を終了するという発表は行っていない。また政府が2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売を廃止し、2050年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を掲げているフランスに本社を置くルノーもF1に参戦しているが、こちらもF1から撤退する話は聞こえてこない。

 にもかかわらず、ホンダだけがF1活動を継続することが難しくなったのだとしたら、それはホンダという企業にそもそもF1に参戦しながら、環境対策に再配分するだけの技術リソースが十分に備わっていなかったとしか考えられない。

 そのことをうかがわせるのは、2015年に復帰した当初のホンダの混迷ぶりにも現れていた。現在のF1のパワーユニットと呼ばれる高性能な動力装置が導入されたのは2014年だが、ライバルメーカーは5年以上の開発期間を設けていたのに対して、ホンダは2013年の5月に参戦を発表してから本格的な開発がスタート。当時、開発していた技術者ですら、「早くても2016年からが妥当」と語るほど、その復帰計画には無理があった。

 それによってマクラーレンというF1界の名門チームから激しい批判にさらされ、元王者のフェルナンド・アロンソからは、ホンダのパワーユニットは「GP2エンジン」(GP2は、当時のF1直下のカテゴリーだったシリーズ)と揶揄されたこともあった。

 ホンダは地に落ちたブランドイメージを取り戻すべく、さまざまな手を打った。体制変更を2度断行し、F1の開発を行っているHRD Sakura以外の研究所からのサポートも積極的に受け入れた。昨年、13年ぶりに優勝を遂げたホンダのターボチャージーには、航空エンジン研究開発部門が有する知見と技術が入っていた。

次のページ
批判されるべきは“参戦”したこと?