「建築と時間と妹島和世」より、2018年11月に完成した大阪芸術大学のアートサイエンス学科校舎。キャンパスへと続く坂道を上がり、最初に目に入る建物だ。アートサイエンス学科は同大学に2017年に新設。アートと科学を融合し、新しい時代のクリエイターを育てていく
「建築と時間と妹島和世」より、2018年11月に完成した大阪芸術大学のアートサイエンス学科校舎。キャンパスへと続く坂道を上がり、最初に目に入る建物だ。アートサイエンス学科は同大学に2017年に新設。アートと科学を融合し、新しい時代のクリエイターを育てていく
「建築と時間と妹島和世」
<br />監督・撮影:ホンマタカシ
<br />出演:妹島和世
<br />製作:大阪芸術大学
<br />Copyright 2020 Osaka University of Arts. All Rights Reserved.
<br />2020年/日本/カラー/16:9/60分/英語字幕付き
<br />配給:ユーロスペース 
<br />公式ウェブサイト:kazuyosejima-movie.com
<br />2020年10月3日(土)より公開中
「建築と時間と妹島和世」
監督・撮影:ホンマタカシ
出演:妹島和世
製作:大阪芸術大学
Copyright 2020 Osaka University of Arts. All Rights Reserved.
2020年/日本/カラー/16:9/60分/英語字幕付き
配給:ユーロスペース 
公式ウェブサイト:kazuyosejima-movie.com
2020年10月3日(土)より公開中
撮影・監督を務めたホンマタカシさん。1962年東京都生まれ。写真家。1999年、写真集『東京郊外 TOKYO SUBURBIA』(光琳社出版)で第24回木村伊兵衛写真賞受賞。雑誌、広告などで活動するほか、郊外の風景、波、東京の子ども、建築物など幅広いジャンルを被写体に撮影を続けている。ドキュメンタリーを中心に、映画監督としても活動している
撮影・監督を務めたホンマタカシさん。1962年東京都生まれ。写真家。1999年、写真集『東京郊外 TOKYO SUBURBIA』(光琳社出版)で第24回木村伊兵衛写真賞受賞。雑誌、広告などで活動するほか、郊外の風景、波、東京の子ども、建築物など幅広いジャンルを被写体に撮影を続けている。ドキュメンタリーを中心に、映画監督としても活動している

「建築と時間と妹島和世」は不思議な映画だ。大阪芸術大学が新設した「アートサイエンス学科」の校舎を、建築家の妹島和世がつくり上げるまでの3年半を記録したドキュメンタリーだが、そこに説明的な要素はほとんど入っていない。妹島氏を写した映像と、定点カメラがとらえた工事の映像が、淡々と、しかし詩のようなリズムをつけて紡がれている。映画の監督・撮影を行ったのは写真家のホンマタカシさん。数十年にわたって妹島建築を撮り続けているホンマさんに、その魅力と、映画を通して見えてきたものを聞いた。

軽やかで、明るくて、権威的ではない建築
 
「もともとは映画にするつもりで撮影したわけではないんです」

 きっかけは大阪芸術大学側の制作会社からの依頼だった。妹島和世さんが手がける新校舎の構想から完成までを、半年に1回くらい、10分ほどの動画で記録してほしいという。

「2015年から半年に1回のペースで、妹島さんの10分間の動画を撮り、大学には定点カメラを置かせてもらいました。動画は全部で6本撮ったのですが、撮り終わる頃になって『映画にしよう』という話になりまして。だから、撮影していたときは映画にするとは思っていなかったんです。ただ、僕は過去にもいくつか映画を撮っていて、もともと映画という形式と映像をあまり分けて考えていません。この作品も映画と映像作品の間くらいだと思っています」

「金沢21世紀美術館」や「ROLEX ラーニングセンター」などの建築で知られる妹島和世さんは、2010年に建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞を受賞し、国際的に活躍する建築家。ホンマさんにとっては、ライフワークのように撮り続けている重要な被写体だ。妹島建築との出合いは1990年代の後半。バブルがはじけて既存の価値観が大きく揺らいだ時代で、ホンマさん自身、新進の写真家として世に出た頃だった。

「僕の写真は明るいとか、透明感があるという言葉で表現されました。つまり、“明るい写真”でデビューしたんです。それまでは白黒で暗い写真とか、コントラストのはっきりした重たい写真が主流だったんですよ。建築も同じで、それまで評価されていたのは重たい感じのものが多く、権威主義的というか、体制側の感じがして、僕自身はあまり好きではなかった。その認識を変えたのが、この頃に注目された妹島さんでした。東京のいくつかの小さな家の作品をはじめ、妹島さんがつくる軽やかで透明感のある建築に出合い、僕の中でも建築そのものに興味が出てきたんです」

 その後、さまざまな建築家の作品を撮影する機会が増えていった。数多の建築を撮ったが、惹かれるのはやはり、軽やかで、権威的ではない作品。

「たとえば、ル・コルビュジェ。建築界の巨匠といわれる大御所だけど、実際の建築は意外にも小さいんですよね。まさにヒューマンスケール。ああ、いいなと思いましたね。妹島さんの建築については、軽やかさに加え、なんといっても、周りの環境と融合していることが魅力だと思います」

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