「まあ、あなたたちもいろいろあったよね」

 そう、夫は一時、女のひととも暮らしていた。でも私は彼を支えてくれる女性がいてくれると聞いて、逆に安心したのだけれど。

「でも、最後まで彼があなたと別れなかったのは、なぜだかわかる?」

 お父さんのめんどうは私が最後まで見るよ、と言ったからじゃない?

「あのひと、好きだったのよ。あなたのこと」

 私は、大粒の涙をこぼしてしまいました。

 長い間夫婦を続けていると、身近過ぎるがゆえに、相手への配慮が欠けてしまいがちです。夫への気遣い、妻への気遣いというものがどうしても後回しになってしまう。それは多くの方が思い当たることだと思います。

 でも夫婦というものは、一番長い間、一緒に人生を戦ってきた「戦友」です。そのひとの「老い」と向き合い、そのひとを支えていく気持ちはやはり何を措(お)いても大事にしなければならないものです。それをおろそかにして、あとから何かを悔やんでも、たぶん悔やみきれるものではありません。

 どうぞ、身近なひとこそ、大切にしてください。

 何歳になっても現役で頑張ることも大事です。でもそれだけではなく、ひととしての思いやりを大切にしてほしいと思います。

 自分の一番近くにいるひとを思いやること。そして毎日少しでも幸せを感じてもらえるように、サポートすること。それはふだん働いている、働いていないなどといったこととは関係なく、こころ配りすべきことではないでしょうか。

【しなやかに生きる知恵】
自分たちの“いま”と向き合って、家族で手を差しのべあい、支えあう

小林照子(こばやし・てるこ)
美容研究家。ヘア&メイクアップアーティスト。1935年、東京都生まれ。東京高等美容学院を卒業後、小林コーセー(現・コーセー)に美容部員として入社。数々の大ヒット商品を手掛け、85年、同社初の女性取締役に就任。その後独立・起業し、美容ビジネスの企業経営や後進を育てる学校運営をおこなっている。『人生は、「手」で変わる。』(朝日新聞出版)、『これはしない、あれはする』(サンマーク出版)、『なりたいようになりなさい』(日本実業出版社)、『美しく生きるヒント』(青春出版社)他著書多数。YouTubeにて「小林照子TV」がスタート

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小林照子(こばやし・てるこ)/美容研究家。ヘア&メイクアップアーティスト。1935年、東京都生まれ。東京高等美容学院を卒業後、小林コーセー(現・コーセー)に美容部員として入社。数々の大ヒット商品を手掛け、85年、同社初の女性取締役に就任。その後独立・起業し、美容ビジネスの企業経営や後進を育てる学校運営をおこなっている。『人生は、「手」で変わる。』(朝日新聞出版)、『これはしない、あれはする』(サンマーク出版)、『小林照子流 ハッピーシニアメイク』(河出書房新社)ほか著書多数

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