おおたわ史絵さん(撮影/写真部・掛祥葉子)
おおたわ史絵さん(撮影/写真部・掛祥葉子)
中野信子さん(撮影/写真部・掛祥葉子)
中野信子さん(撮影/写真部・掛祥葉子)

 麻薬性鎮痛剤の依存症だった母に薬を与えていた父。高校生の娘が帰るのは、使いまわした注射器が散らばった家だった……。

【対談相手の中野信子さんの写真はこちら】

 おおたわ史絵さんの新刊『母を捨てるということ』には、これまで誰にも明かしてこなかった家族の歴史がつづられている。そのなかに「誤解」という見出しがある。依存症、なかでも薬物依存症は偏見をもって語られることが多い。依存症に陥った母を最も近くで見つづけてきたおおたわさんは、その誤解が依存症からの回復の妨げになっているという。

 発売を記念して行われた、脳科学者の中野信子さんとの対談は、「世間が思う依存症と、その実態とのギャップ」からはじまった。

*  *  *

おおたわ:依存症とひと言でいっても幅が広くて、もっとも有名なのはアルコール依存症です。あとはギャンブル、薬物、セックス、万引き。DVなどは暴力の依存ですし、最近では痴漢や盗撮なども依存症の側面があるといわれています。何に依存するにしても、だいたいは「意志が弱いからなる」「それだけ気持ちいいからやめられないんだ」と思われてしまう。それは結局、本人がダメな人間だ、家族が甘やかしたせいだという考えにもつながります。依存症というもの自体が、まだまだ理解されていないと感じます。

中野:性格の問題にされがちですよね。意志でどうにかできるのなら、依存症の人はいまよりずっと少ないはずです。私はここが日本の科学教育の残念なところだと思っているのですが、もっと脳の仕組みを理解する必要があります。脳の仕組みを知っていれば、自分の意志以上の強い力が働くから、依存「症」として扱うのだとわかります。

おおたわ:誤解しているうちは家族や周囲も「なんとかやめさせなくちゃ!」ってなりますよね。そうするほど悪循環にはまってしまうのですが。

中野:ドーパミン(神経伝達物質のひとつで、これが出ると人は「気持ちいい」と感じる)の影響力は凄まじいですね。ドーパミンがたくさん出ている状態を脳が覚えてしまったうえに、その受容体が増えてしまうと、ちょっとの刺激では物足りなくなる。その刺激なしでは生きていけなくなるし、「もっと欲しいもっと欲しい」という欲求で頭がいっぱいになり、ほかのことが考えられなくなる……。

次のページ
誰かに相談するという発想もなかった…