おおたわ:鋳込み型がはまったままだと、いつまでもその器は使えない……おもしろい喩えです。親の役割とは、焼き上がったあとに鋳込み型である自分を自分で壊すことだと思います。私の患者さんでも、息子のために朝早く起きて朝食と弁当を作り、夜は帰宅を待って夕食を作ってヘトヘトになっているという女性たちがいます。80代の母親が50代の息子の世話を焼いているケースもめずらしくなくて、医師からすれば、早寝してほしいし、日中は散歩など運動もしてほしい。でも彼女らのなかでは、子を養護することがいまだ自分の人生の主軸となっていて、そこから抜け出すことができないんです。

中野:そうせざるを得ない環境にいらっしゃる人もいれば、ずっと鋳込み型でいることに、自分の存在意義を感じる人もいるんでしょうね。平均寿命が短かった時代においては、鋳込み型としての役目が終わったあとはそれほど時間が残っていなかったですけど、いまは鋳型が終わってからの人生もまた長いんです。

おおたわ:空の巣症候群という言葉もありましたが、そこで人生を終わりだと思うのはもったいないですよね。

中野:ところで、毒親や機能不全の話になると必ずといっていいほど「連鎖するのかどうか」ということが気にされます。この話をするうえで外せないのが、遺伝です。私たちはたとえば「愛情深い」とか「浮気をしがち」とか、性格傾向を決める遺伝子を持っていて、それを親から受け継ぐことがあります。そのうえで、育つ環境も大きく影響してきます。有名な「ハリー・ハーロウの実験」というのがあって、サルの赤ちゃんを母親から引き離し、抱きつくことができるよう針金のママを用意した。そこに哺乳瓶も付いているので、赤ちゃんはお腹がすけばそこにいくけど抱きつこうとはしない。いつもは針金のママではなく、毛布に抱きついているんですよ。

おおたわ:やわらかい触覚を求めているのかな?

中野:そうですね、触覚によってオキシトシンが分泌されるようなんです。

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実験の結果は…