<その6「セリフを噛む」>
 人間だもの、噛むこともある。
 噛み方にも段階があって、小石につまづくような甘噛みから、ダンプにぶつかって血塗れになるような大事故まで様々だ。
 大事故だろうが何だろうか、「何か問題でも?」という精神で動揺せずに突き進むしかない。

<その7「セリフが飛ぶ」>
 我々は舞台上で、照明の感じやら、立ち位置やら、音楽、会話のリズム、相手役の動きや表情、衣装が身体に触れる感じ、などなど無意識に様々な情報を感じ取ってシーンの感覚を掴んでいる。それだけ感覚を研ぎ澄ませている。
 何かが一つズレただけで「なんかいつもと違う……」と不安がよぎるし、感じ取ってしまう。そんなちょっとした動揺で間がズレると、セリフがポン! と飛んでしまうリスクがあるのだ。
 ある役者さんが髭と眼鏡をつけ忘れて舞台に出た瞬間、顔に当たる風が冷たく感じて気づいたそうだ。「その瞬間、気絶しそうになりました」とその人は言った。
 ちょっとした動揺どころではなかったろうが、その方はセリフを飛ばすことなく無事、そのシーンを乗り切った。

<その8「嫌われてる」>
 終演後、自分以外のみんなが集まって飲んでいる写真をたまたまツイッターで見つけてしまう。
「え? 嫌われてる?」

<その9「はまってない」>
 再演されることになったが、自分の役だけ別の役者がキャスティングされている。それ以外のキャストは全員初演の時と同じなのに。
 マネージャーに、「なんか別の仕事と重なった?」と確認してみるも言葉を濁される。

 まだまだ挙げていったらキリがない。

 とにかくこれらの怖さを抱えながら日々過ごしているのだ。

 やっぱりどう考えても歳を重ねるごとに怖いものは増え続けている。

 それでも生きていくのだ。

 面白いことだっていっぱいあるんだから。

 生きていこう。

■水野美紀(みずのみき)
俳優。ドラマ・映画・舞台で活躍中。<出演情報>日本テレビ系「マネキン・ナイト・フィーバー」が10月8日スタート。レギュラー番組は、フジテレビ系バラエティ「突然ですが占ってもいいですか?」毎週水曜22:00~、讀賣テレビ「水野美紀の映画生活(シネマライフ)」毎週金曜22:54~<関西ローカル> http://www.ytv.co.jp/cinemalife/

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水野美紀

水野美紀

水野美紀(みずの・みき)1974年、三重県出身。女優。1987年にデビュー。以後、フジテレビ系ドラマ・映画『踊る大捜査線』シリーズをはじめ、映画、テレビドラマ、CMなど、数多くの作品に出演。最近では、舞台やエッセイの執筆を手掛けるなど、活動の幅を広げている。2016年に結婚、2017年に第一子の出産を発表した

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