だが、そんな父親はサノ氏が中学2年のときにこの世を去る。アルコール依存症が年々悪化して精神を病んでいき、飛び降り自殺をした。わずか14歳で天涯孤独になったサノ氏。こうした体験が、冒頭のような「永遠なんてない」という人生観を形成し、ときには成り上がる原動力となっていく。

 その後は叔母や祖父母などを頼り、親戚の家を転々として暮らした。大学は祖父母の家から通ったが、あえて布団では寝ず、床で寝ていたという。将来ビジネスに失敗したら、帰れる家はどこにもないと覚悟し、将来のホームレス生活に備える必要性を感じていたからだ。

 この頃から「自分の力で生きていく」ことを強く意識するようになり、どうやったら金を稼げるかを常に考えて生活していくようになった。

 学費を稼ぐため、大学在学中は大阪ミナミと歌舞伎町のホストクラブでホストをして稼いだ。売れっ子ホストの言動を観察したことで、入店から1カ月で「新人王」に輝き、最終的にはNo.2に上り詰め、十分な額を貯め込んだ。その分、夜型の生活が染みついて早起きが苦手に。大学卒業後は、「夕方まで寝ていられる」という理由で、バーの経営を始めた。

 数年かけてお得意さんを獲得してバーの経営は安定し始めたが、今度は「店舗拡大をするにはどうすればいいか」など、経営にまつわる数多くの疑問がわいてきた。当時の交際相手が京大生だった縁で、京大の大学院で経営学を学ぼうと一念発起。マンツーマンで教えてもらいながら猛勉強をして、見事に進学を果たした。

 バーの経営を学ぶために進学したつもりが、在学中にサラリーマンに興味を持つようになったことで、店は在学中に閉店。卒業後は大手広告代理店に入社し、29歳で晴れて新卒のサラリーマンになった。

 広告マンという仕事柄、若手としてSNS施策などの意見を求められる機会が多かったが、ツイッターをやっていなかったため、答えに困ることもしばしば。勉強のため、昨年の5月から「日常生活で起きた切なかった出来事」をつぶやくことにすると、開始からわずか1週間でツイッターの通知が鳴りやまなくなる「バズ」を経験した。

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今の時代は「持たざる者」にとってはチャンス