がん免疫療法は、2018年にノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑教授が発見したPD-1分子に対するオプジーボが中心に使われています。この薬は、がんを攻撃するキラーT細胞の効果を高める作用があります。PD-1分子というのはがん免疫をブレーキする働きがあって、それを阻害するのがオプジーボです。ブレーキを外してキラーT細胞ががんを攻撃するアクセルを踏む役割を担います。

 実際、オプジーボを使っている患者さんのがん組織をとって顕微鏡でのぞいてみると、がん細胞の周辺でキラーT細胞が増加していることがあります。ここではキラーT細胞ががんを攻撃し炎症が起きている、いわば戦場です。

 皮膚の中のがんとキラーT細胞の戦いは、オプジーボの効果によって激戦となり、結果として皮膚表面では赤みとなってあらわれることがあります。メラノーマの周辺が赤くなっている状態は、キラーT細胞が一生懸命に戦っているサインでもあるのです。

 こうやって体の中で起きていることを患者さんに説明すると、患者さんは「得体のしれない皮膚の赤み」から想像できる組織内変化へとぐっと変化します。

「免疫もがんばっているんですね。この調子でがんに勝ってほしいです」

 患者さんも安心したようで、その後、皮膚の赤みを毎朝見ては自分の免疫を応援していたようでした。

 私たち医師は病気のメカニズム、そして薬の作用機序も勉強します。これら医学知識は病気を治すときに必要です。それに加え、苦しい闘病中にすこしでも安心してもらうための道具としても医学知識は活用できるのだと、患者さんから学ばせていただいた出来事でした

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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