大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医
大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医
※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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 がんで闘病中の人は些細な体の変化にも不安を感じるものです。「どうしてこんな症状が出ているのか?」という問いに医師はどう対応するのか。『心にしみる皮膚の話』の著者で、京都大学医学部特定准教授の大塚篤司医師が、がん患者とのやりとりをもとに語ります。

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 私は皮膚科医で皮膚がんを専門としています。皮膚にできものができたり、どこか腫れてきたりすると患者さんは心配になって相談にこられます。皮膚がんの診断がすでについている患者さんは、治療中に新しいできものができると転移や再発が心配になります。

 自分の体で何が起きているのか? どうしてこんな症状が出ているのか?

 不安は想像を悪いほうへ悪いほうへと働かせます。

 先日も足にできたメラノーマ(悪性黒色腫。ほくろのがんとも呼ばれます)を治療中の患者さんが皮膚の症状について心配そうに聞いてきました。

 メラノーマは内臓に転移することの多い皮膚がんです。また、皮膚にも転移します。もともとあるがんのことを原発巣(げんぱつそう)と呼びますが、その周辺やリンパの流れに沿って皮膚表面に転移が出てくることがあります。専門的にはこれらをイントランジット転移(リンパの流れに沿って「移動途中」の転移)といいます。

 その患者さんは原発巣を手術で切除してから何年か経過し、皮膚に転移が多数できてしまったためにオプジーボによるがん免疫療法を行っていました。

「がんのまわりが赤く腫れてきました」

 皮膚の病気は変化が見えるため、患者さんも比較的早い段階で気がつきます。

「これは悪いものなのでしょうか?」
「生活の中でなにかいけなかったことがあるのでしょうか?」

 私は矢継ぎ早にいくつも質問を受けました。

 専門性の高い医学の領域では残念ながらネットに答えが載っていることはほとんどありません。実際にほしい医学情報を見つけたとしても、それが正しいのか、また自分に当てはまるかまではわからないと思います。

 患者さんの質問に私はこう答えました。

「この赤くなっている部分は、おそらく、がんと戦っているサインだと思います」

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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