こうした「身代わり」の早さが可能だったのも、7年8カ月にもわたり、安倍氏を研究して観察力を磨いてきたからだ。



 現在38歳の佐竹氏は、66歳の安倍氏に寄せるため、化粧で肌のテカリを抑えてシワを書き足すなど、「アンチエイジング」とは真逆のメークを極めてきた。開発に2年ほどを費やしたこのメークは、「安倍首相の気苦労」とともにマイナーチェンジを繰り返してきた。

「この2年で白髪が一気に増えたので、ベビーパウダーで髪を白くする作業も加えています」

 しゃべり方の習得も一筋縄ではいかなかった。YouTubeで国会答弁や選挙演説の動画を繰り返し視聴するなど、安倍氏のしゃべり方を徹底的に研究。移動時間はスピードラーニングのように答弁を聞き流し、語学習得と似た要領で「安倍氏の語り」を体に染みこませていった。政治家の語りは失言を避けようとして句読点が多くなりがちだが、安倍氏は特にそれが顕著だったという。

「安倍さん独特の『間』を身に付けたときに、どんなことを話していても、安倍さんっぽいしゃべりができるようになりました」

 しゃべりを身につけた2015年ごろから軌道に乗り、全国各地のイベントに出演。知名度を高めていった。

 辞任の意向を知った瞬間は「もうきたか」と驚いた。だが、体調を心配しつつも、前述のように自らも新たな芸を磨くチャンスと前向きにとらえた。安倍氏によって「芸人人生を変えられた」と佐竹氏は話す。

「安倍さんが長く総理でいてくれたおかげで、人物の声のトーンや抑揚をとことん研究したり、見せ方を追究したりする時間を長く持てた。芸人としてスキルアップができたことは、感謝しかありません。あれだけ長く総理をやられた方なので、モノマネの需要もまたどこかであると思います」

 そして今、顔まねのスキルアップを図りながら、菅氏のしゃべり方やしぐさを鋭意研究中だ。現時点でつかんだ菅氏の特徴について、分析の途中経過を明かす。


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まねるのが難しい菅首相の”なまり”