そのやりとりに国民のフラストレーションがたまるなか、官房長官の記者会見に乗り込んでいったのが、東京新聞社会部の望月衣塑子記者だった。

 同年6月8日、「総理のご意向」などと書かれた文書の再調査を要求。司会の官邸報道室長から「繰り返しの質問はお控えください」と言われても、「きちんとしたお答えを頂いていないから聞いているんです」と官邸記者クラブを覆う空気を打ち破り、計23問の質問を浴びせた。その様子は夜のテレビニュースでも放映され、耐えかねた政権は文書の存在を認める再調査実施に追い込まれた。国民・市民の期待に応える質疑を行うには、メディア側の多様性や型にはまらない姿勢が必要であることを強く印象づける事件になった。

 しかし、官邸はその後、望月記者に対し、(1)質問の順番を後回しにする(2)「公務がある」といって質問数を制限(3)質問中にもかかわらず7~8秒おきに「簡潔に」と妨害(4)質問内容に「事実誤認」のレッテルを貼る――といった嫌がらせを繰り返し、意に沿わない記者を排除しようとした。

 その象徴が、18年12月26日の記者会見をめぐる対応だ。

 沖縄県名護市辺野古で進む米軍新基地建設をめぐり、望月記者が「埋め立て現場ではいま、赤土が広がっております」と質問したことについて、菅官房長官は「法的に基づいて、しっかり行っています」「そんなことありません」とまともに答えなかったあげく、官邸報道室が「表現は適切ではない」「事実に反する」と主張する文書を官邸記者クラブの掲示板に貼り出した。

「東京新聞の当該記者による度重なる問題行為については、総理大臣官邸・内閣広報室(ママ)として深刻なものと捉えており、貴記者会に対して、このような問題意識の共有をお願い申し上げるとともに、問題提起させていただく」と書かれていた。「本件申し入れは、記者の質問の権利に何らかの条件や制限を設けること等を意図したものではありません」という言い訳が添えられていたが、記者の排除や質問封じを狙った申し入れだった。

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この申し入れが悪質なのは…