武田:何を悲惨と思うかは人それぞれです。見る方も問われる。「うん、でも、彼女の人生は彼女の人生で、とっても素晴らしいよ」なんて軽々しく肯定するのもよろしくない。

上出:映像の作り手としては、悲惨か悲惨じゃないか、しあわせかしあわせじゃないか、人によって受け取り方が違うことが、豊かなコンテンツであることを示すのではないかと思ったりしていました。

武田:上出さんが撮ってきた彼女の姿を見て何を感じるかは、視聴者にあずけられる。つまり、わからないまま、差し出される。この感じがとても貴重です。今は、意味をやたらと明確にして、「わかる」という状態の固形物で差し出さないと、情報を食べてくれない。本当は、そうやって確固たる形にする過程で「捏造」「過剰」などの成分が混じっていないか、疑ってかからなければいけない。でも、「わかる」固形物を欲するんです。

上出:「ハイパー」の中でもわからないことに対するストレスに相当直面しましたが、特にロシアのある宗教の信者が暮らす村を取材したときは、彼らはわからないことから解放されようとしてここにいるんじゃないかということを強く思ったんですよ。日本人はわからないことと向き合う手立てを持っていないような気がする。宗教が弱いということはあるのかなという気がしますが……日本に特有のことなのかな。(構成/長瀬千雅)

※第2回「『コミュ力ある人』はむしろ悪人?武田砂鉄が自分を『こんなにピュアな人間はいない』と思う理由」へつづく

■上出遼平(かみで・りょうへい)
1989年、東京都生まれ。2011年株式会社テレビ東京に入社。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズの企画、演出、撮影、編集まで番組制作の全課程を担う。空いた時間は山歩き。

■武田砂鉄(たけだ・さてつ)
1982年、東京都生まれ。出版社勤務を経て、2014年からフリーライターに。新聞への寄稿や、週刊誌、文芸誌、ファッション誌など幅広いメディアで連載を多数執筆するほか、ラジオ番組のパーソナリティとしても活躍。9月28日スタートの新番組『アシタノカレッジ』(TBSラジオ、月~金、22時~)の金曜パーソナリティを務める。