実際には、どのように子どもと引き離されてしまうのか。産後うつで実家に帰っている間に、子どもに会えなくなってしまったひとりのお母さんのケースを紹介したい。

 あやさん(仮名)は、6年前に長男を出産。抱っこの仕方、授乳、おむつ替え、寝かしつけ、どれも初めての体験にとまどいながらも、試行錯誤しながら子育てに励んでいた。しかし、産後3週間を過ぎたころから、夜眠れないことが多くなり、精神的にもつらくなってしまったため、夜間のミルクだけは夫に代わってもらうようになった。

 それでも精神的な不安から一睡もできない日が何日も続き、夫に「眠れなくてつらいよ……」と助けを求めた。しかし夫は「眠らせてくれ。話しかけないでくれ」と面倒臭そうな態度。あやさんはどんどん追い詰められていった。

 しばらくすると、夫から「2人分の面倒は見られない。1人で実家に戻って休んだらどうか」と言われたため、あやさんはこのままうつ状態が続くよりは、早く心身の健康を取り戻すほうを優先したほうが、この子にとっても、今後の夫婦関係にとってもいいのかもしれないと、数日間ひとりで実家に帰ることにした。長男の翔くん(仮名)がまだ寝返りを始める前、産後1カ月のことだった。

 実家に戻ってすぐに、夫に翔くんの様子を尋ねるメールを送っても返事がなく、ようやく1週間後に電話で話すことができたものの、「昼間も泣きっぱなしで困る」「子どもの湿疹がひどくなったのはアンタのせいだ」などと怒鳴られ、電話を切られてしまった。

 あやさんは翔くんのことが心配になって、あわてて自宅に戻った。しかし、夫はあやさんが自宅に入ることを拒否。「子どもを置いて出て行ったと、近所や会社の人にも言ってある。ここは俺の家だぞ。話し合うなら代理人を連れて来てくれ。こちらはもう依頼している」などと一方的にまくし立てられ、翔くんにも会わせてもらえないまま追い返された。その後、一方的に荷物を実家に送り返され、自宅の鍵を替えられてしまった。

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