ただ、その接待の日は金曜日でした。ダイスケ君は月曜日の朝に、ちょっと疲れた表情で出社したそうです。そして、指導係のAさんに恐る恐るという感じで出してきたのが領収書でした。

「コレ、経費で落ちますか」

 発行名義は「○○商事」となっていますが、住所は明らかにラブホテル街。

「バカ。そんなもん、落ちるわけないだろ」

 その後、Aさんへは何度もダイスケ君を交えた飲み会(接待)をするようにYの女性たちから要求が来るようになったといいます。実はAさんもその頃からY相手の仕事がバカバカしくなって転職を模索していました。まだ仕事のできないダイスケ君を“いけにえ”として差し出すことにしたようで……。

「おいダイスケ、今度はお前がひとりで行ってこい」

 そう言うと、ダイスケ君は顔を引きつらせて「Aさん、それだけは勘弁してください!」と哀願した、という伝説が社内には残っています。

 飲み代は接待費として経費になります。しかし「○○商事」の領収書は無理。ダイスケ君の薄給では負担が大きすぎたのかもしれません。数カ月後、ダイスケ君は円盤を辞めました。その後、どうしているかは誰も知りません。

 一方、クライアントのYもその頃からだんだんと経営に行き詰まってきたようです。さして時間のたたないうちに、Yは大手不動産会社に救済合併されました。Yの社員たちも全員が引き取られたようですが、あの「アマゾネス軍団」がどうなったのかは、業界でも誰も知らないようです。新会社で同じようなセクションが存続しているとも聞きません。私から見ても、あまり機能的とは思えないシステムだったので、合併と同時に淘汰されたのかもしれません。Yの女性社員には既婚者が多いという話も聞いたので、今は家族と幸せに暮らしているのかもしれません。

 ダイスケ君の“スケープゴート事件”はもう15年以上前の話。今とは企業のコンプライスもジェンダー意識も違いましたが、私が感じたのは、男も女も権力を持つとやることは結局一緒なのだなあ、ということ。不動産業界の“しょーもなさ”を再確認した出来事でした。(文=住宅ジャーナリスト・榊淳司)