私は代理店を通してYの仕事を請けていましたが、3回目か4回目の打ち合わせで、仕事を切られてしまいました。担当の女性がパンフレットの文言におかしな赤字を入れてきたので、「それは日本語としておかしいです」と言って修正を拒否したのです。すると、代理店の営業に「あの人はもう来させないで」と言ってきたらしいです。まあ、私としては「せいせいした」という感じでした(笑)。

 私が仕事をしたのは、Yからほど近い場所に本社を置く小さな広告代理店でした。ここでは仮に「円盤」としておきましょう。私が切られた後、彼女たちは円盤に仕事を発注する条件として「若い男性の担当者をよこせ」と要求してきました。建前は「若くて元気がないとウチの仕事はこなせない」というものでした。しかし、円盤は基本おじさんばかりの会社だったので、担当者としてYに出せたのはやっとこさ40代の既婚男性のAさんだけ。彼女たちはそれに対して不満をもっていたようでした。

 ちょうどその頃、円盤にはダイスケ君という若い男の社員がいました。彼はビックリするほど男前で、まだ20代半ば。第二新卒みたいな形で円盤に入社しました。私は円盤の若い社員さんたちとわりと仲が良かったので、よく飲みに行っていたのですが、ある時、ダイスケ君もその酒席にやってきました。

「ダイスケ君、えらい男前やなあ」と言ったのを覚えています。ただ、話してみると人間的な面白みがあるタイプではなく、正直、広告代理店の営業には向いていなさそうな感じでした。

 そんなダイスケ君が、Yの担当になったと聞いたのは、しばらくたってからのこと。ただ、ダイスケ君は経験不足だったので、40代既婚のAさんのサブとしてデビューしたようでした。ところが、ダイスケくんはジャニーズばりの容姿ですから、たちまちYのお姉さんたちに取り囲まれたそうです。

「すぐに飲み会を設定してちょうだい」

 Aさんはすぐに飲み会をセッティングしたようですが、指導係のAさんは、ただただ無表情なおじさん。一方でダイスケ君は超がつくイケメンなので、飲み会の席では、もちろん女性たちはダイスケ君を取り囲みます。ただでさえ飲み会が嫌いだというAさんはそんな状況にうんざりしたのか、

「じゃあダイスケ、あとは任せるからな。くれぐれもお客さまに失礼のないように」

 と言い残して先に席を立ってしまったそうです。その後、ダイスケ君がどうなったか……円盤では誰も知りません。

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行方がわからなくなったイケメン社員