一方、ひとつの腱板が切れていても、残りの腱板がうまく機能して補えれば、肩が動いて無症状で過ごせることも多いという。

■腕が上がる点で五十肩と異なる

 肩腱板断裂は不完全断裂の場合、五十肩と症状が似ているために、なかには長期にわたり五十肩と誤診されていることがある。

「肩腱板断裂は、痛みのせいで腕を上げられなくても、反対の手で支えれば上がるのが特徴です。それに対して五十肩は、他の人が持ち上げても腕が上にも横にも後ろにも動かない、動きの制限がある点で異なります。正確に診断するには、医療機関を受診して専門医に診てもらう必要があります」(中川医師)

 肩腱板断裂も五十肩同様、まずは、薬物治療とリハビリによる保存療法を積極的におこなう。

 痛みがあるときには安静にし、薬物療法で炎症を取り、痛みを軽減させる。症状の程度に合わせて、消炎鎮痛薬の内服、外用剤などを用いる。

「肩の痛みに対しては、非ステロイド性消炎鎮痛薬では効果がいまひとつのことがあり、痛みが強い場合はオピオイド系鎮痛薬のトラマドールを用いたり、関節内で骨の動きを滑らかにする作用があるヒアルロン酸や抗炎症効果の強いステロイドの局所注射をしたりします。注射は打つ場所が適切でないと効果が出ないため、肩関節を専門とする医師の治療を受けるべきでしょう」(菅谷医師)

 炎症が治まった後は、肩関節の動きを改善したり、筋力を強化したりするためのリハビリ治療が重要になる。それらが奏効しないとき、手術が検討される。

「正しいリハビリで無症状にもっていける症例は多く、実際に肩腱板断裂で手術の対象になるのは半数以下です」(同)

「注射で夜間痛が取れず夜眠れないなど、保存療法でも満足のいく改善が得られず、つらい痛みが半年近く続く場合には、患者さんの希望を聞いたうえで切れた腱板をつなぐ手術を選択します」(中川医師)

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