(イラスト/今崎和広)
(イラスト/今崎和広)
『新「名医」の最新治療2020』より
『新「名医」の最新治療2020』より

 多くの日本人が悩む肩の痛み。たんなる肩こりと異なるつらい痛みや動きの制限があれば、早めに専門医にかかり、正確な診断・治療を受ける必要がある。週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』では、中高年以降に多く起こる肩腱板断裂の症状や原因、治療法について専門医に取材した。

【データ】「肩の痛み」かかりやすい性別や主な症状は?

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「肩腱板」とは、腕の骨である上腕骨と、肩甲骨をつなぐ板状の腱のこと。肩関節は可動域が大きな関節で、肩腱板は上腕骨頭が肩甲骨の受け皿部分(関節窩)にしっかりとはまってずれないように保つ重要な働きをしている。

 肩腱板は、肩をぶつける、ひねる、重いものを持つなどの外傷をきっかけに断裂することがある。また外傷がなくても、肩をよく使うスポーツや家事での反復動作の繰り返しや、加齢による組織の変性が原因となり、多くの高齢者の肩腱板に損傷や断裂が見られる。

 船橋整形外科病院スポーツ医学・関節センター長の菅谷啓之医師はこう話す。

「肩腱板断裂は40歳以下に起こるのはまれですが、その発症率は加齢とともに増加します。肩腱板断裂はX線検査ではわかりません。MRI(磁気共鳴断層撮影)検査や超音波検査で診断すると、60歳では約5人に1人、80歳では約2人に1人にみとめられます。外傷により急激に大きな断裂が起こると激しい肩の痛みが表れ、すぐに手術をすることもありますが、高齢者などで徐々に腱板が切れると、自覚症状がまったくないケースも珍しくありません」

 肩腱板断裂の典型的な自覚症状として、腕を上げ下げする際の肩の痛みや引っかかり感、脱力などが表れるようになる。

 腕の上げ下げの際、胸から肩の高さでは痛むが上げきると痛くない、上げた腕を下ろすとき、引っかかって痛いといった症状がある。

 肩関節には腕を動かす深層筋である棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の四つの腱板がついており、腱板について同愛記念病院整形外科の中川照彦医師は次のように説明する。

「もっとも切れやすいのは棘上筋ですが、広範囲に断裂が及ぶこともあります。症状の出方は、断裂の部位と程度によって違ってきます。1センチ以内は小断裂、3センチまでは中断裂、3センチ以上は大断裂と呼ばれ、初期のほとんどは一部が切れる不完全断裂ですが、放置すると完全断裂に移行し、自然に治ることはありません」

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