昨今の大手芸能事務所の中には収益の波が激しい本業とは別に、飲食業やサービス業、水商売、冠婚葬祭業などの副業に励んでいる会社も多い。だが、前出の芸能事務所の社員いわく、「今回のコロナ禍は飲食業などにも多大な被害を及ぼしていますからね。多角経営が裏目に出て八方ふさがりになっている会社もあります」とか。

 こうした苦境の中、芸能事務所をはじめとする多くの事業者は現在、イベントやライブ、コンサートなどに関して、経済産業省による「J-LODlive補助金」を受けながら公演を開催している。

「J-LODlive補助金」は、本質的には日本発のコンテンツの海外展開やプロモーションの促進、支援のための制度なのだが、現実的にはまずは国内での公演を成功させるべく、多くの事業者が申請しているというのが実情のようだ。公式ホームページを確認すると、9月2日の時点で予算消化率32.1%(※交付決定額に基づき算出)となっている。

 補助の内容は、新型コロナの感染拡大の影響で今年2月1日から来年1月31日までに予定していた国内外の公演を延期、中止した事業者などに対し、中止した公演1件ごとに上限を5000万円として、今後実施する公演の出演料や制作費、会場費、運営費、感染予防対策費など規定の対象経費の半分を補助するというもの。「上限5000万円」「経費の半分」という文言だけをみると恵まれているようにも思えるが、これだけの支援を受けても公演を成功させるのは難しいという。

「客席は感染予防対策の観点から“3密”を避けてソーシャルディスタンスを確保するため、前後、左右の席を空けなくてはならず、動員できる観客は従来の半分以下です。それに、いくら運営側が細心の注意を払っても、コンサートや公演などでのクラスター感染を恐れる声はいまだに根強く、本人の意思というよりは家族や知人など周囲の人に止められて足を運ぶのを断念するというパターンが多い。そうすると、ただでさえ少ない客席すら埋まらないことがあります。細かい話では、会場で売っているコンサートグッズの大半は業者を通じて中国で作られていたのですが、今はコロナの影響でほぼラインが止まっている。国内の会社に作ってもらうとなると、そのぶん費用もかさみますからね。悩みは尽きないですよ……」(前出のレコード会社スタッフ)

 新型コロナにむしばまれた芸能界の正常化は、想像以上に険しい道のりになりそうである。(芸能評論家・三杉武)

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三杉武

三杉武

早稲田大学を卒業後、スポーツ紙の記者を経てフリーに転身し、記者時代に培った独自のネットワークを活かして芸能評論家として活動している。週刊誌やスポーツ紙、ニュースサイト等で芸能ニュースや芸能事象の解説を行っているほか、スクープも手掛ける。「AKB48選抜総選挙」では“論客(=公式評論家)”の一人とて約7年間にわたり総選挙の予想および解説を担当。日本の芸能文化全般を研究する「JAPAN芸能カルチャー研究所」の代表も務める。

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