―――周さんにはフェローとしてどのようなことを期待したのでしょうか。

 政治に対する日本の若者の関心がなかなか盛り上がらない。そこで、香港の学生民主化運動の経験をとおして自由や民主主義を守る大事さを語ってほしいと、周さんにお願いしていました。彼女の話を聞いて、日本の若者が政治を真剣に考えるようになればいいと思いました。

―――北大公共政策大学院は周さん支援のためにどのような取り組みを行っていますか。

 いま、わたしたちが自主的、勝手連的なものとして行っているのが、署名活動です。ウェブサイトの活動(Change.org=チェンジ・ドット・オーグ)を含めて、1万人以上の署名が集まりました。これを日本の首相官邸に届けるつもりです。このような動きがあることを示して世論を動かしていく。やがて国際社会で香港の現状に対する関心が高まり、それが、周さんやその周囲・背後で苦しい目に遭っている多くの記者・学者・経営者・運動家への支えになればいいと思っています。

―――大学が支援を呼びかける意義についてお願いします。

 周さん、黎さんが取り組んできた思想、言論、表現の自由、集会やデモを行う自由とは、大学がよって立つところの基本的な問題であり、人権の尊重と大きく関わってきます。彼らは狭義の大学人、アカデミックの世界の人ではありませんが、大学と近しいところにいます。自由への弾圧を放置すると、大学やアカデミズムの世界に必ずはね返ってきます。すでに中国の大学では言論の自由が厳しく制限されており、中国政府の意に反する行為をした香港大学の教員が解雇されるなど、忖度も広がっています。こうした弾圧は決して看過できません。大学教員が国家に忖度しては、アカデミズムは成り立たない。いま、日本で「自由を奪われること」が自分たちの問題でないにしても、香港の問題を放っておいたら、自分のところにふりかかってしまいかねない。日本からも連帯の意志をはっきり伝えるべきです。多くの大学の教員、学生に香港の現状について関心を持ってほしいですね。

*  *  *

 いま、周庭さんは香港警察によって、パスポートを取り上げられてしまっている。

 本来なら、周さんは来日し北大フェローとして学生や市民に香港の民主化運動について語りかけるところだが、それはかなわない。それどころか、北大にも圧力があったという。

 周さんのフェロー就任が公表されて以来、中国当局から北大に2回、抗議が来ている。遠藤教授、北大公共政策大学院としては、フェローである周さんの不利益にならないように勝手連的な支援をすすめている。

 大学のグローバル化が進んでいる。文部科学省の政策でもあり、大学は外国人留学生の獲得、海外派遣、外国語による授業に力を入れている。

 周さんが北大公共政策大学院フェローに就任したことも、北大のグローバル化の一つと捉えていいだろう。自由と民主主義を守ることに国境はない。北大のような取り組みは世界中に広がってほしい。それが香港の人たちを勇気づける。これも大学の大きな役割である。

 周庭さんの北大公共政策大学院フェローの任期は2020年度いっぱい、つまり、来年3月末までだ。それまでに周さんが北大で講演を行うことができればいいが、きわめてむずかしい。ならば、ほかの大学においても、アカデミズムの観点から教養知、専門知を追究する具体的なケースとして香港の民主化運動に取り組み、周さんを支援するようになればいいと思う。

 繰り返すが、周さん支援は大学のグローバル化の実践といえる。

(文/教育ジャーナリスト・小林哲夫