――第一次政権では約1年の短命に終わりましたが、第二次政権では約7年8カ月の歴代最長政権となりました。

 第一次政権で安倍首相が辞任したとき、彼が再び政権を取るなど誰も予想できなかった。自民党内でも「彼はもうないな」という見方が強く、当時の防災相だった溝手顕正(けんせい)氏は「(安倍首相は)過去の人」と切り捨てました。

 これを安倍首相は怨念のように覚えていたのでしょう。溝手氏が出馬する参議院広島選挙区に、あえて同じ自民党の河井案里氏を立てた。案里氏側に1億5千万円を渡したのは、溝手氏に対する安倍首相の執念深さ、いわば「10倍返し」です。結局党内で潰しあう形となり、溝手氏は落選しました。案里氏は公職選挙法違反の買収罪で起訴されていますが、事柄の本質は「溝手後援会つぶし」にあったと私はみています。

――河井克行・案里夫妻の公職選挙法違反については、裁判で100人以上の証人が出廷するとされています。

 必ず安倍首相の周辺や党本部にとって都合の悪い証言が出てくるはずです。安倍政権の失敗は、息のかかった前東京高検検事長の黒川氏を検事総長に据えられなかったこと。だから東京地検特捜部は、河井夫妻を起訴することができた。政権による露骨な人事介入を体験した検察が本丸にどこまで迫ることができるか、注目です。

――長期政権では、さまざまな汚職疑惑がありました。それでも安倍政権が選挙に勝ち続けてきた要因はなんでしょうか。

 得票率からすれば一度も勝っていない。野党に負けなかっただけです。安倍政権には5つの統治手法があります。

 1つ目は「情報隠し」。政権内部の「不都合な真実」は決して表に出さない。野党やマスコミから迫られると、文書の改ざんまでやる。

 2つ目は「争点ぼかし」、3つ目は「論点ずらし」です。集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法で批判を浴びると、「消費税増税の先送りの是非について国民の信を問う」として衆議院を解散した。選挙の争点は完全に見えなくなりました。17年には森友・加計学園問題で追及されると、今度は北朝鮮のミサイル問題や少子高齢化を理由に「国難突破解散」と銘打って選挙を行った。争点なき選挙で記録的な低投票率をつくりだす。国会で野党に追及されると、まったく別の問題を持ち出して論点をずらしていく。「ごはん論法」もその一つです。今回の辞任も、コロナ対策の失敗や河井夫妻の公職選挙法違反の責任を追及されるべきところを、「病気」によって論点をすりかえたのです。

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長期政権作った「前提崩し」