林:科博では比較的これまでも視覚だけではなく触覚、聴覚、嗅覚など五感を使って展示体験する流れはありましたが、今後はいかにバーチャルでそれを実現していくかというチャレンジをしています。技術的にはすでに、じかに触らなくても手を近づけて操作ができるなどあります。また科博は標本を約470万点持っているのですが、上野の展示空間はこれ以上広がらないので、ニューヨーク公共図書館のように日本各地にいろんな標本を寄託展示しても良いかもしれません。VRを使えば展示のための建物もいらなくなりますから、私たちの「来館者300万人」構想も夢ではないと思っています。

ただ一つだけ譲れないのは、一生に一回でいいから皆さんにリアルなものを見てもらいたいという点です。やはり本物でないと得られないような感動は、あるんじゃないでしょうか。

ニューノーマルな美術館・博物館であるために
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Withコロナ時代において美術館や博物館は、大型集客・大型企画を目指した取り組みがしづらくなった。いま両館が目指すのは、良質な作品を堪能してもらうための環境づくりだ。
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片岡:第一には安心して展覧会を鑑賞できる環境を整えることが優先されます。美術展はもともと静かに鑑賞することが求められ、また作品に触れたりすることも特別な場合を除いては無いため、公共空間であっても観客同士のフィジカルディスタンスさえ保つことができれば、比較的安全な場所であると言えるでしょう。

そして従来のような、多くの観客が行列して作品を鑑賞するような大量動員型の展覧会が難しくなるとしても、人気の高いコンテンツがまったく無くなるわけではありません。そうした場合に、鑑賞者のために十分な空間を設けて入場者数を限定する形での開催は可能です。優れた美術作品をより広々とした空間で鑑賞できることは、鑑賞体験の質も向上すると言えるかもしれませんね。

林:感染症の拡大が落ち着いたとしても、恐らく以前と同じ状態にはならないでしょうし、「ニューノーマル」は個人の生活においてだけでなく、組織としてもそうするべきだと思っています。これは全ての公共施設に対して言えることですが、昨今は災害も頻繁に起こりますので、来場者とそれを迎える我々の安全を確保しつつ、施設をどう管理していくかが課題です。例えば今は、来場者をお待たせしないように入館を予約制にし、20分ごとに定員を設けて入館していただいています。週末はあっという間に予約が埋まってしまうことが多いので工夫しなければなりませんが、良い鑑賞環境をできる限り提供する「ニューノーマルな科博」をこれから目指します。
                     (構成:カスタム出版部)