(イラスト/今崎和広)
(イラスト/今崎和広)
『新「名医」の最新治療2020』より
『新「名医」の最新治療2020』より

 日本人の死因の上位を占める肺炎。なかでも誤嚥性肺炎は、加齢や病気でのみ込む力(嚥下機能)が低下する人に発症し、治療後も繰り返すことが多い。食事中に食べ物が気道に落ちてむせる誤嚥は、肺炎だけでなく窒息の危険もあり、注意が必要だ。週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』では、誤嚥を防ぐための食事の工夫や注意点などについて、専門医に取材した。

【データ】誤嚥性肺炎にかかりやすい性別や年代は?

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 誤嚥には、睡眠中など自分でも気づかないうちに唾液が気道に垂れ流しになる「不顕性誤嚥」と、食事中にむせるなど自覚症状のある「顕性誤嚥」がある。誤嚥性肺炎は不顕性誤嚥を繰り返すことによるものが多いが、のみ込む力が落ちている人は顕性誤嚥も起こしやすい。東京都健康長寿医療センター・呼吸器内科部長の山本寛医師はこう話す。

「顕性誤嚥は誤嚥性肺炎の原因になるだけでなく、窒息の危険もあります。高齢者はもちろんのこと、のみ込みが悪くなる病気をもつ人はとくに注意が必要です」

■食事は楽しみや生きる意欲に

 最も多いのは、脳梗塞や脳出血といった「脳血管障害」の後遺症だ。食べるときには、食べ物を認識して口に入れ、噛んで唾液とともに口の中でまとめ、のどに運んでのみ込んでいる。脳はこうした一連の動作にかかわっているため、脳血管障害で損傷した部位によっては「舌やのどの筋肉が麻痺して十分動かない」「のみ込もうとする反射が起こらない」など、さまざまな障害が起こる。

 さらに▽パーキンソン病や認知症といった神経変性疾患の進行▽肝硬変によるアンモニアの上昇▽ナトリウムやカルシウム量の異常▽頭頸部がんや食道がん、肺がん手術後の神経損傷などでも、のみ込みに障害を起こしやすい。

「食事中に食べ物が気道に落ちかけてもむせたり咳をしたりすることで口の奥まで戻すことができれば誤嚥は防げますが、病気でのみ込む力が弱っている人には難しい。また、病気のために免疫力が低下していると、気道に食べ物ごと落ちてきた細菌を免疫でブロックできずに肺炎を発症することも少なくありません」(山本医師)

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