※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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自治医科大学病院消化器一般移植外科部門教授 排便機能外来味村 俊樹(みむら・としき)医師
自治医科大学病院消化器一般移植外科部門教授 排便機能外来
味村 俊樹(みむら・としき)医師

 知らないうちに、あるいは意思に反して便が漏れる、トイレまで間に合わないなどの症状があらわれる「便失禁」。加齢による肛門括約筋(肛門をしめる役割をする)の機能低下が原因のことが多いため、だれにでも発症のリスクがある。治療は食生活の改善や薬物療法などの保存的療法や、外科治療がおこなわれる。

【写真】排便機能外来の味村俊樹医師

 自治医科大学病院の消化器一般移植外科で排便機能外来をおこなっている味村俊樹医師が、以前勤務していた埼玉県の病院の排便機能センターで経験した男性のケースを中心に、排便機能外来での診察・治療を紹介する。

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 さいたま市在住の80代の男性は、10年ほど前に受けた内痔核(ないじかく)の手術後から便が漏れる症状に悩んでいた。便漏れのほかには消化器の異常を疑わせるような症状はまったくなかった。

 家族からは、「なぜ我慢できないか?」「もっと早めにトイレに行けばいいのに」などと言われ、家庭内で孤立していた。じゅうぶん気をつけていても漏れてしまうことを説明してもわかってもらえない。

 改善方法はないものかとインターネットで検索して、県内にある病院の排便機能センターを知り、さらに2014年4月に「仙骨神経刺激療法」という治療法が保険適用になったことを知った。
 
 男性は2014年6月、同院の排便機能センターを受診し、当時センター長であった味村俊樹医師に仙骨神経刺激療法を受けてみたいと相談。診断の結果、内痔核の手術による内肛門括約筋損傷で、知らないあいだに便が漏れてしまう「漏出性便失禁」と判明した。

「便失禁はめずらしい症状ではありません。便失禁に悩む人の推定数は約500万人といわれています。この男性のように家庭内で困って、あるいは長い間一人で悩んだ末に病院を受診する人は多く、また、60歳以上で便が週に数回漏れるような人では、年だから仕方がないと半ばあきらめている人も多くみられます。しかし便失禁は病気であり、治療すればよくなる可能性があることを知っていただきたいです」(味村医師)

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薬物療法で3カ月たってもよくならず…