今回使うのは、「クライムミル」というマシンだ。ベルトコンベヤーのように上から次々と新しい階段が流れてくる。コンベヤーの速さは調整が可能だ。上部についているモニターには、昇った段数や消費カロリーが表示されるほか、イヤホンをつければYouTubeやテレビを視聴することもできる。

 今回の挑戦の制限時間は、ジムとの事前の打ち合わせで約24時間となっている。翌日の午前8時までに“仮想エベレスト”の頂きを目指すというわけだ。坂本さんによると、43599段昇れば、エベレスト(8848メートル)と同じ高さを登ったことになるという。

「本当にきついですよ。無理しないでくださいね」

 応援に駆け付けてくれた坂本さんが、不敵な笑みを浮かべながら声をかけてくれた。

「脅かさないでくださいよ。怖いなあ」

 そう言いながらも、記者は今回の挑戦に自信がある。大学まで野球部で鍛えてきた体力はそれなりにあると自負している。疑似登山は「自粛生活で増えた体重を減らせて一石二鳥だ」くらいに考えていた。だが、これが安易な考えだったことにすぐに気づくことになる。

 午前8時半、意気揚々とスタート。外は30度超えの暑さだが、室内は空調が効いている。おまけにクライムミルにも送風機がついているのはありがたい。開始5分ほどで身体が汗ばみ始めたが、久しぶりの運動には心地よさすら感じる。実際の過酷なエベレストの環境に比べれば、仮想エベレストは天国のような環境だ。

 午前9時ごろ、他の利用客が現れ始めた。すぐにマスクを着用する。これがつらい。自分の吐いた息がマスク内で充満し、体感温度はみるみる上がる。すぐにマスクが汗で濡れて、顔にくっついてしまう。周りに人がいないときには、マスクを外すようにした。

 午前9時半ごろ、小休憩をとる。1時間で3448段。建物換算で約215階分だとモニターに表示されている。このペースなら、単純計算で約13時間で登頂できることになるが、このペースを維持できるわけもない。すでに記者の息は上がり始め、汗は滝のように流れ出ている。早くもしんどくなってきた。

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10000段に到達!その景色は…