特急「踊り子」などはおもに観光需要に応えた直通運転列車といえるが、かつては都会と観光地とを結ぶユニークな直通運転列車が活躍していた。

 比較的記憶に新しいのは、名古屋鉄道と高山本線(国鉄→JR)とを直通運転していた特急「北アルプス」だろう。名鉄と国鉄間は戦前から直通運転が実施されてきたが、1965年8月に名鉄キハ8000系気動車を用いた準急「たかやま」が名鉄のターミナル・神宮前と高山との間にデビュー(翌年に急行格上げののち飛騨古川発着に変更)。70年7月に「北アルプス」と改められたのち、76年10月以降は特急に格上げされ2001年10月まで高山本線特急の一員として活躍してきた。一時は富山を介して富山地方鉄道立山線に乗り入れ、3社間の直通運転も実施されていた。

 首都圏発着では、急行「志賀」が上野と長野電鉄の湯田中との間を直通、上野~屋代を急行「妙高」との併結し定期列車として運行されていた。屋代からは長野電鉄屋代線に乗り入れ、須坂から長野線で湯田中を目指したが、屋代線は2012年4月に廃止、この直通列車も昔語りとなって久しい。また、高崎線系統では谷を介して国鉄・JRと秩父鉄道とを直通する列車も設定され、「くもとり」「みつみね」などの愛称が用いられていた。

 地方に目を向けると、鹿児島交通の枕崎と西鹿児島(現・鹿児島中央)との間で直通運転が実施されていた。西鹿児島~伊集院を鹿児島本線経由とするルートだが、枕崎では指宿枕崎線が接続しており、周回ルートの乗り継ぎも可能であった。鹿児島交通は1984年に鉄道全線廃止となったが、現在は伊集院~枕崎などで路線バスを運行しているので、鉄道とバスを介していにしえのルートを辿ってみるのも面白いかもしれない。

 ざっと直通運転を俯瞰してみたが、生活路線としての実用面だけでなく、休日の日帰り鉄道旅などに生かしてみたいルートもある。今後もユニークなルートが出現する可能性もあり、趣味的観点からも注目してみたい分野といえる。(文・植村 誠)

植村 誠(うえむら・まこと)/国内外を問わず、鉄道をはじめのりものを楽しむ旅をテーマに取材・執筆中。近年は東南アジアを重点的に散策している。主な著書に『ワンテーマ指さし会話韓国×鉄道』(情報センター出版局)、『ボートで東京湾を遊びつくす!』(情報センター出版局・共著)、『絶対この季節に乗りたい鉄道の旅』(東京書籍・共著)など。