理由があるんです。あとで知ったのですが、本番まで、演出の木村隆文さんがなつの姿を僕に見せないようにスタッフに指示していたのです。本番で初めてその花嫁姿を見た瞬間、驚きと同時に、喜びも寂しさもドォッと込み上げてきました。それにしても朝の番組です。じいさんの顔が鼻水でぐちゃぐちゃだったら、お茶の間には不快でしょう。すると木村さん、「あ、アレは消しますから」。ああそうか、いまはそういう時代なのか! 二度三度とその才腕にキメられました。

 なつの結婚については、以前、泰樹は手痛い失敗をしています。

 アニメーターを目指す以前のこと。なつを“本当の家族”にしたい余りに、清原翔くん演じる孫の照男と結婚させようとするのです。

<どして、そんなこと言うの! じいちゃんは、私から大事な家族を奪ったんだよ!>

 泣きながら訴えるなつに狼狽する泰樹。以後、なつの東京行きの流れは止められようもなく、二人は別々の場所を“開拓”し続けることになるわけです。それから幾年月が流れての、なつの結婚でした。

 泰樹はきっと知ったのでしょう。同志、仲間、血縁、家族。それぞれかたちの異なるつながりに見えても、人間同士のつながりに条件はないと。同時に僕も知りました。素直になれれば、自分以外は皆、師だと。感謝、感謝です。