しかし、日曜9時台の「日曜劇場」は当時、そうではなかった。石井ふく子や橋田壽賀子らが手がける女性向けのホームドラマを1話完結形式で放送していたのだ。それが1993年、連ドラ形式に変わる際、大人向けのドラマを作るとしてリニューアル。その第1作は山田太一作品だった。

 が、なかなか大ヒットが生まれず、結局、木村拓哉に頼ることに。「ビューティフルライフ」など数作が高視聴率を記録したものの、キムタク好きの女性視聴者に依存していた印象は否めない。

 その風向きを変えたのが「JIN-仁-」の成功である。これは時代劇に現代性をミックスさせ、まさに大人の男が喜ぶ内容でもあった。そして、池井戸潤作品という鉱脈が見つかる。「半沢直樹」がそうであるように、大人の男がスカッとする現代的な逆転劇というものが量産できるようになったわけだ。

 この池井戸潤原作による作品群は、前出の「西部警察」にも似ていると思う。こちらは銃や車の代わりに、言葉や策略で戦い、その応酬で男たちの心を熱くするのだ。なかなか芽の出なかった「21世紀の裕次郎」こと徳重聡が「下町ロケット」での怪演でプチブレークできたのも、偶然ではないだろう。

 ただ、その池井戸作品のなかでも「半沢」の人気は突出している。それは、主演の堺雅人の力によるところが大だ。この人ほど、時代モノ現代モノの両方で結果を出し続けている役者はなかなかいない。この作品が成功した最大の理由はやはり、堺なのだ。

 というのも、彼は大河「真田丸」で真田信繁を演じた際、大坂の陣での立場についてこう解説してみせた。

「市役所の課長さんクラスがこんな感じなのかなと。任された現場でトラブルや非常事態が起きて、上との連絡が途絶え、その時に現場の最高責任者として決断するという状況が一番近いと思いましたね」(スポーツニッポン)

 戦国の武将を市役所の課長に置き換えられる柔軟さ。だからこそ彼は、時代劇を現代劇っぽく、現代劇を時代劇っぽく演じられるのだろう。

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押しつけがましくない「主役」