「いえ、市役所へ確認したところ、可能性はあるそうですよ。今、お義母さんを慕っている甥っ子やその子どもたちにも将来、負担を強いることになり、恨まれるかもしれません。それでもいいんですね?」

 興津さんに詰め寄られ、義母は絶句。やがて「お父さんが名義変更したいならすればいい」とこぼしたため、興津さん夫婦が手続きを引き受けることとなった。

■「甥やその子どもたちに迷惑をかけたくない」

 当時、義父はすでに87歳。土地の相続人は、本来は義父と、その兄と弟と妹の4人となる。しかし兄と弟はすでに亡くなっており、84歳の妹は認知症が疑われる状態。義父の兄と弟の相続権はその妻や子どもに移り、妹の相続権は仮に認知症が進行した場合、その子どもに移ることになる。しかし、いずれの人とも義父たちはほとんど交流がなかった。

 興津さん夫婦は行政書士に相談し、相続人探しを依頼。調査を進めるうちに、義父の妹の息子は亡くなっていることがわかった。その息子の妻は外国人であり、夫の死後に離婚し、子どもとともに帰国していた。

 行政書士は、「(義父の妹の)認知症が進行したり、亡くなったりした場合、その外国人の元妻の子が相続人となる。外国人が絡んでくると、ややこしいことになるケースが多い」と説明。

 また、義父の亡くなった兄と弟にも子どもがいることがわかると、行政書士は、「その人たちが生活に困っていたり、欲深い人だと、土地の相続を辞退してもらう際に、大金を求めてきたり、ごねる可能性がある」と話し、興津さん夫婦は相続手続きで苦労することを覚悟した。ところが幸いなことに、義父の妹の認知症は進行せず、弟の娘たちも、兄の妻も息子も、スムーズに相続辞退に応じてくれた。

「まずは自分たち夫婦のため。そして将来、相続人となるであろう義両親の甥たちに迷惑をかけたくないという一心で、義父母の生前整理をしてきました。自分たちが今するべき責任を果たさないことで、誰に迷惑がかかるのか? それを義両親に教えたかったというのもあります。『ややこしいから』『面倒だから』と言って逃げ通してよいものではありません。義両親が健在なうちに片付けておかないと、後になるほど大変なことになると思います」(興津さん)

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土地を義父の単独名義にするのに2年…