結局、このマンションがこれまで一番長くて、6年間住んだ。当時は全日本プロレスから他団体のSWSへ移籍した頃で「馬場さんを裏切った!」と非難の的にされ、「天龍源一郎の家」だとバレるとピンポンダッシュされたり、「おい!天龍!」なんて大声で呼ばれたり、車にイタズラされたりしてね。さらに俺がのど元への逆水平チョップやサッカーボールキックみたいなハードな技で攻撃すると、相手のレスラーのファンも怒って嫌がらせしに来るんだよ……。俺は巡業で家にいることが少ないけど、女房は娘と女2人だけだから心配だったようだ。娘の小学校が近くだったもんだから、彼女が卒業するまで待って引っ越しだ。ご近所さんにも迷惑がかかるしね……。大体、2年サイクルで「天龍の家」だということがバレてイタズラされるようになるもんだから、最短で10カ月で引っ越ししたこともある。

 引っ越し先はすべて女房任せ。引っ越す条件としては俺が「頭をぶつけないこと」は気にしてくれたみたいだね。引っ越しのときも天龍だってバレちゃいけないっていうんで、荷造りも女房任せ。俺はホテルに泊まっていて、引っ越しが終わったら初めて新居を見るんだ。だからよく「これから帰るけど、俺はどこに行ったらいいんだ?」って女房に電話して聞いていたよ(笑)。

 そうやって何回も引っ越しをしているんだから、内装や家具に関してはそんなにこだわりはない。こだわりがあるのは、いつも座るソファの周りによく使うものが揃っていることだね。俺のソファの横にはペリエやコーラを入れた小型の冷蔵庫を設置していて、耳かき、爪切りなんかも近くに置いておく。相撲部屋のときは若い衆に「おい、冷蔵庫からコーラ取ってくれ」って、そんな感じだったけど、なんせ家には付け人がいないからな! 相撲時代の癖が習慣になってしまって、今でも娘や女房が立ち上がるのを待って「お、ちょうどいいところに来た。リモコンを取ってくれ」みたいな感じだ。あまりにも俺が動かないもんだから、女房が耳かきや爪切りをちょっと離れた場所に置くようになったんだけど、俺はそれでも面倒くさいから女房が立ち上がるまで待つんだ。それで女房もついに根負けした。相撲取りは人を使うのがうまいからね(笑)。

 最近もまた女房が「そろそろ引っ越すよ!」と言い始めている。彼女は「庭でガーデニングしてみたい」とか「家庭菜園で野菜を育てたい」とか「ベランダに植物を飾りたい」というそのときの気分で引っ越しをするからね。まあ、俺も引っ越すのは嫌いじゃない。毎回、今度はどんな場所なんだろうって楽しみにしているし、どこでも住めば都だよ!

(構成・高橋ダイスケ)

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天龍源一郎

天龍源一郎

天龍源一郎(てんりゅう・げんいちろう)/1950年、福井県生まれ。「ミスター・プロレス」の異名をとる。63年、13歳で大相撲の二所ノ関部屋入門後、天龍の四股名で16場所在位。76年10月にプロレスに転向、全日本プロレスに入団。90年に新団体SWSに移籍、92年にはWARを旗揚げ。2010年に「天龍プロジェクト」を発足。2015年11月15日、両国国技館での引退試合をもってマット生活に幕を下ろす。

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