放送作家の鈴木おさむ氏
放送作家の鈴木おさむ氏

 放送作家・鈴木おさむさんが、今を生きる同世代の方々におくる連載『1970年代生まれの団ジュニたちへ』。今回は、「肌感覚」という言葉について。

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 僕がなるべく使わないようにしている言葉があります。それは「肌感覚」と言う言葉。
この数年、急に会議などでいろんな人が使い始めた気がします。辞書の定義だと「長年の経験に基づく一種の暗黙知」みたいなことでしょうか。

 5年ほど前に、とある会議で、すごく仕事のできるディレクターさんが「今、これがおもしろいと思うんだよね。肌感覚なんだけど」と言われて、「肌感覚」と言う言葉をすごく意識した気がします。その人はかなりの天才的ディレクターで、その人が「肌感覚」と言うのだから、すごく納得してしまいました。

 が、その人がその言葉を使いだしてから、その番組では、下のディレクターたちも使うようになるわけです。「肌感覚」と言う言葉を。若いディレクターと会議してて、その人が「これね、分からないんですけど、僕の肌感覚なんですけど」とか言い出しやがりまして。

 何でしょう。その時ね、とてつもない違和感を覚えたわけです。ずっと気持ち悪い。

 そしたら、彼以外の他のディレクターもやたらと「僕の肌感覚なんですけど」とか言いだして、違和感がイラツキに変わる。

 肌感覚と言うのは、「長年の経験に基づく」というのが大事なわけです。だから、その仕事を長年やっている人しか使っちゃいけない気がします。そして、「大きな結果を出している人」しか使ってはいけない。

 僕はなんとなく「肌感覚」と言う言葉を使わないようにしました。正直、「肌感覚」と言う言葉が大好きです。響きも含めてとても好きな言葉です。会議していて、つい「肌感覚」と言いたくなりますが、ぐっとこらえます。「自分にはその資格がない」と。

 自分の中で「肌感覚」という言葉を絶対に使わないようにしようと決めた日があります。

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鈴木おさむ

鈴木おさむ

鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。

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