「(社長は)昨日は値引きなんて絶対するなと言っていました。矛盾していますよね」

 この社長は毎日のように「〇〇しなさい」と社員に言うのですが、その要望が、過去の指示や発言と相反するときが頻繁にある。しかも、指示が出てから短い期間で矛盾するような要望が出されることがよくあるとのこと。

 幹部の社員は慣れているので、適当にかわしているのですが、相当数の若手社員は「やってられない」とモチベーションを下げているようなのです。結果として若手社員の離職数は増えることになりました。

 ところが社長は「人事部の問題だ」、「若手社員は我慢が足りない」と自分に要因があることに気づいていないとのこと。発言の矛盾はまじめに話を聞く人ほどマイナスに影響するのです。

 同じようなことをしているオーナー社長は本当にたくさんいます。

 彼らは「自分が会社を背負っている。いろいろ会社の問題を掘り下げて考えると、昨日よりいい方法が思いつくことがある。少しの矛盾は仕方ない」という発想をしているのかもしれません。だから、社員の萎える気持ちをオーナー社長は理解できません。むしろ「この朝令暮改についてきてほしい。ついてこられる人材こそ幹部になれる」くらいに思っているようです。

 管理職クラスでも、オーナー社長のように朝令暮改を平気で行う上司がいます。取材したネット系ベンチャーで営業部門の管理職をしているFさん。読書が好きで、直近に読んだ本から学んだことをベースに部下にメッセージをメールしていました。

 ところがこのメールで部下に伝えていることで矛盾のあることが頻繁にあるのです。Fさんは、続けざまに、次のようなメッセージを送っていました。

 顧客第一主義がテーマの書籍を読んだときには、「お客様からの要望には何でも応える姿勢を示してほしい」。

 翌々週、断る技術がテーマの書籍を読んだときには、「お客様の要望にすべて応えては商売にならない。できないことをきっぱり断る勇気を持ってほしい」。

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ある程度不真面目になることも重要です