「声がないぞ!」

 ベンチからはグラウンドの選手たちを鼓舞する声がとぶ。なんとか立て直し、四番打者を三ゴロに仕留めて1死を取ったが、その間に三塁走者が生還。1点を先制されると、その後も失策が絡み、この回3点を奪われる。

 流れを取り戻したい連合チームだったが、二回は三者凡退に。その後も反撃の糸口をつかめず、試合は0対14、五回コールドでゲームが終了した。連合チームの夏が幕を閉じた。

 試合後、少しだけ選手たちに話を聞くことができた。前出の坂本さんは、「勝つことを目標にやってきましたが、力及ばずでした」と悔しさをにじませながら、こう振り返る。

「市川崎の野球部は2人ですが、今大会でどちらも引退するので、約70年の部の歴史が途切れることになる。やりきれなかったことはいくつもありますが、代替大会を戦うことができて、自分のなかでひとつの区切りにはなったと思います」

 感染対策のため、試合後の選手インタビューに許された時間はわずか数分。その制限時間が終了すると、高野連から取材を打ち切られ、選手たちはすぐに帰宅するよう促される。本来なら、夏の大会で敗れたチームには、“最後のミーティング”がある。だが、コロナ禍ではそれすらも難しいようだ。佐々木監督は選手たちを一定の距離を保った状態で集合させ、短くこう語りかけた。

「どうだった?悔いのない人はいないと思う。何かしら悔いが残ったと思う。でも5校連合でやらせてもらって、とても楽しかった。この5校連合でチームを組めてとてもよかった。みんながついてきてくれたこと、感謝しています。またこれからバラバラになるけど、応援しているので頑張ってください。いろいろ(まだ伝えたい)思いはあるけど、撤収!」

 最後のミーティングは時間にしてわずか2分ほど。佐々木監督が話し終えると、近くで見守っていた保護者たちからは拍手がおくられた。そして、選手たちはそれぞれ各校の顧問に短いあいさつをすませ、早々と帰路についた。

 その夜、記者は電話で中里さんに思いを聞くことができた。

「これが最後だという実感は正直まだありません。完全燃焼とは言えないかもしれませんが、自分にできることはやりきったかなと。なので後悔はありません。今後は、進学のために勉強に集中したいと思います」

 最後まで多くの困難に見舞われた球児たちの最後の夏。逆境に負けず、戦い切った選手たちのこれからの人生に、エールを送りたい。(AERA dot.編集部/井上啓太)