そして無事、全員がベンチ入りした連合チーム。記者はすぐ横の記者スペースから見守る。ベンチからは若干の距離があるが、壁がないため選手たちの姿も、声も確認できる。ベンチでは選手同士が声をかけあい、気持ちを高めていた。記者はチームのコミュニケーションが取れているのか心配していたが、杞憂だったようだ。

 連合チームの指揮をとる横浜明朋の佐々木岳監督(28)は、プレイボール直前、ベンチ前の円陣で選手たちの緊張をほぐすように声をかける。

「今日は朝4時に目が覚めてしまったんだけど、(緊張して)そのまま眠れなかったよ」

 選手たちは思わず笑顔を見せる。そして佐々木さんは繰り返し確認するようにこう呼びかけた。

「今日はハイタッチはなしだからね」

 そして午後2時半、試合が始まった。選手たちに声援を送るのは、ベンチやスタンドからだけではない。球場周辺には、フェンスの隙間から子どもたちの勇姿を見届けようと、十数人の保護者たちが集まっていた。もちろん、外からでは外野手の姿がかすかに見えるだけ。試合の状況などほとんどわからない。保護者たちは、「もっと見える場所はないのか」と、もどかしそうにいろいろな場所からなかの様子をうかがっている。

 前出の中里さんの母・奈穂子さん(47)は、スマートフォンで「一球速報」をみながら応援していた。

「ここからだとほとんど見えないのですが、それでも居ても立っても居られなくて…。最後の大会ですから、悔いのないようにやってほしい」

 試合は一回表、先攻の連合チームが死球と安打でいきなり1死一、二塁の好機を作る。ベンチからはマスク姿の選手たちが声援を送り、良い雰囲気だ。だが、後続が倒れ、連合チームはこの回無得点に終わる。

 直後の一回裏、後攻の湘南学院は四球で先頭打者を出すと、続く打者2人が立て続けに送りバント。ここで連合チームの守備の連携不足が露呈してしまう。バント処理が遅れ、いずれも内野安打としてしまう。無死満塁のピンチだ。

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部員引退で70年の野球部の歴史に幕