連合チームで大会にのぞむ選手たち(撮影:井上啓太)
連合チームで大会にのぞむ選手たち(撮影:井上啓太)
大会当日には検温がおこなわれた(撮影:井上啓太)
大会当日には検温がおこなわれた(撮影:井上啓太)
試合前、円陣を組む選手たち(撮影:井上啓太)
試合前、円陣を組む選手たち(撮影:井上啓太)

 中止となった夏の全国高校野球選手権大会。その地方大会の代替となる大会が各地で行われている。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、各都道府県の高野連は地域ごとに独自ルールなどを設定し、ベンチでのマスク着用や検温の実施、無観客開催など、警戒態勢を敷いている。

【写真】検温する選手たち

 大会に臨む選手たちの状態は決して万全ではない。感染防止のため練習時間は大きく制限された。なかでも、単独で部員9人をそろえられず、“連合チーム”を組む学校にとっては、コロナ禍は大きな逆境だったようだ。彼らは“最後の夏”をどう戦ったのか。神奈川県内で最大の5校連合を組んだ市川崎・横浜緑園・釜利谷・永谷・横浜明朋の“5校連合”チームの選手たちを追った。

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 大会初戦まであと1週間に迫った7月26日。予定していた練習試合が雨で中止となり、連合チームの選手たちは校舎下のスペースでティー打撃をしていた。バラバラのユニホームを着た選手たちが、互いに修正点を指摘しあいながらバットを振り続ける。そのなかの1人、釜利谷の3年生・中里崇輝さんはこう話す。

「1年生のころから連合を組んできたので、このような環境には慣れています。練習時間があまり取れなかったのは他校も同じ。そこは仕方がない」

 釜利谷には中里さんの他に2年生が1人、そして大会直前に入部した1年生2人の計4人。「いつかは単独チームでやりたい」と中里さんは新学期の部員勧誘に期待していたが、コロナ禍の影響で今年は勧誘が全くできなかった。中里さんは最後の夏も連合チームで迎えることになった。

 大会を棄権するという選択肢もあった。実際に県内には出場を辞退した学校もある。だが、中里さんには夏の大会に対する思いもあった。

「夏の大会は吹奏楽を中心とした応援がすごくて。緊張というよりは、グラウンドに立つと奮い立つものがありました。そんな雰囲気のなかで野球ができる喜びを、今でも覚えています」

 部員数人の野球部は、学校では決して目立つ存在ではない。それでも、夏の大会が近づくと、同級生からは「今年は勝てそうか」「応援行くからな」と声をかけられた。大会当日には例年、吹奏楽部や生徒たち、たくさんの人たちが応援に駆け付けた。中里さんら部員にとって、夏の大会は晴れ舞台だった。

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「仲間の名前を覚えきれなかった」