【鴻上さんの答え】
 セナさん。大変でしたね。『ほがらか人生相談』では、「毒親」に苦しめられ、いまだに関係を切れず、またはその傷が癒えず、ずっと苦しんでいる相談がたくさん寄せられます。まさにセナさんの妹さんのようなケースです。

 でも、セナさんは、母親とちゃんと距離を取れたのですね。その「戦い」は苦しかったでしょうが、結果としては、本当に良かったと思います。

 さて、僕はセナさんの相談を読んで、じつは、あまり心配していません。

 セナさんは自分の育てられ方、母親の影響、母親と祖母の関係を、ちゃんと距離を置いて客観的に見られていると感じるからです。

「私も将来、因果のように娘を苦しめて、子供から見放されるのでは?」と書かれています。

「因果」は怖い言葉ですね。なんだか呪術的というか、神秘的な力があるような気持ちがします。

 でも、誤解です。そんな力はありません。

 昔、科学が発達してなかった時代には、なんでもかんでも「因果」のせいにしました。何か理由が欲しかったんですね。

 前世の因縁だの祟りだの、とにかく人間は納得できる理由が欲しいのだと思います。でも、人間関係においてそんなものはありません。

 あるとしたら、「無意識の思考習慣」です。

 自分で自覚しないまま、一定のルールで思考を続けてしまう場合です。

 僕はNHKのBS1で『cool japan』という番組を15年ほどやっているのですが、「日本人としての無意識の思考のルール」に気付いた時、ハッとします。

 例えば、「どうして日本人は入社式をするの?」とか「どうして日本の学校では清掃を子供にやらせるの?」とか「どうして日本人は意見を言った後、無意味に笑うの?」という外国人の疑問です。

 外国人が「職場で私に意見を言う日本人は、真面目なことを言った後に、突然、笑うんです。真剣な話をしているのにどうして?」と質問しました。

 街でインタビューしてみると、日本人は意見を言った後、多くの人が笑います。

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「どうして笑うんだろう?」