石川幹人さん(撮影/写真部・掛祥葉子)
石川幹人さん(撮影/写真部・掛祥葉子)

※写真はイメージです(GettyImages)/大人は思いつかないような、子どもの素朴な疑問や不思議。子どもの頃から、納得できる答えが得られないままになっていること。そんな質問に、テレビやラジオなどでも活躍する明治大学教授の石川幹人(まさと)さんがお答えします。ジャンルを問わず、答えが見つからない質問をお寄せください!(https://publications.asahi.com/kodomo_gimon/)。採用された方には、本連載にて石川幹人さんが、どこまでもまじめに、おこたえします
※写真はイメージです(GettyImages)/大人は思いつかないような、子どもの素朴な疑問や不思議。子どもの頃から、納得できる答えが得られないままになっていること。そんな質問に、テレビやラジオなどでも活躍する明治大学教授の石川幹人(まさと)さんがお答えします。ジャンルを問わず、答えが見つからない質問をお寄せください!(https://publications.asahi.com/kodomo_gimon/)。採用された方には、本連載にて石川幹人さんが、どこまでもまじめに、おこたえします

「人間は進化したら何になるの?」
「どうして、“わたし”は“わたし”なの?」

 発想豊かな子どもの疑問に大学教授が本気で答える連載「子どもの疑問に学者が本気で答えます」。子どもに聞かれて答えられなかった疑問でも、幼い頃からずっと疑問に思っていることでも、何でもぜひお寄せください。明治大学教授の石川幹人さんが、答えてくれますよ。第21回の質問は「お母さんのおなかの中に居た頃のことを覚えていると言っても信じてもらえません。どうして?」です。

*  *  *

【Q】お母さんのおなかの中に居た頃のことを覚えていると言っても信じてもらえません。どうして?

【A】3歳までの出来事の記憶は、ほとんど後から作られていると思われているからです。

 私の小さい頃のあざやかな記憶は、3歳のときに親に連れられて行った幼稚園の入園準備審査の様子です。そこでは、先生に手を引かれて机の前に座らされ、絵本を読んで聞かされました。でも、読み聞かせがすぐに退屈になった私は、別の机に置かれた玩具に興味をひかれ、勝手に歩き回ったところ、先生に元の机まで引き戻されました。そのとき、「全部終わったら、これをあげますよ」と、“終了のごほうび”を見せてもらいました。そのごほうびは、折り紙で作られたきれいなかごで、中にキャンディが3つ入っていました。

 一応納得した私は、もとの机にいったん戻ったものの、退屈な時間に耐えきれず、また歩き回ってしまいました。その審査は、すべての机を順番に回れる落ち着きのある子が合格だったようです。私は2つ目の机に行くことなく、“終了のごほうび”をもらって帰されました。帰り道、私はごほうびをもらってうれしかったのですが、親は悲しそうだったのを覚えています。とうぜん、幼稚園への入園は1年遅れました。

 私にとってこの出来事の記憶は、たいへん鮮明です。とくに折り紙のかごは、それまで見たことのないデザインで強く印象に残っています。さて、こうした幼少期の出来事の記憶を、心理学ではどのようにとらえているかをお話ししましょう。

 まず、多くの人に3歳までの出来事の記憶はほとんどありません。この理由は、その時期に脳が急速に成長するので、体験の断片的な記憶があったとしても、脳の成長によって配線が変わり、いつどこで誰が何をしたというような体系的な記憶として残らないからです。

 また、私のように、たとえ3歳時に体験した出来事の鮮明な記憶があったとしても、それを3歳のときの体験をそのまま覚えていたとは判断しないのです。

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石川幹人

石川幹人

石川幹人(いしかわ・まさと)/明治大学情報コミュニケーション学部教授、博士(工学)。東京工業大学理学部応用物理学科卒。パナソニックで映像情報システムの設計開発を手掛け、新世代コンピュータ技術開発機構で人工知能研究に従事。専門は認知情報論及び科学基礎論。2013年に国際生命情報科学会賞、15年に科学技術社会論学会実践賞などを受賞。「嵐のワクワク学校」などのイベント講師、『サイエンスZERO』(NHK)、『たけしのTVタックル』(テレビ朝日)ほか数多くのテレビやラジオ番組に出演。著書多数

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記憶は後から作られやすい?