※写真はイメージです(c)Getty Images
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大人の引きこもり問題をかかえる母親を取材した臼井美伸さんの著書
大人の引きこもり問題をかかえる母親を取材した臼井美伸さんの著書

「大人の引きこもり」は、もはや対岸の火事ではない。

【本】大人の引きこもり問題を抱える母親たちを取材した臼井美伸さんの著書

 筆者が「大人の引きこもり」について取材を始めたのは、4年ほど前だ。ひきこもりの当事者だけでなく、親も孤独と周囲の無理解に悩み、サポートを必要としていることから、子どもの引きこもり問題を抱える母親を20人以上取材し、このほど、『「大人の引きこもり」見えない子どもと暮らす母親たち』(育鵬社)を上梓した。

 その過程で、「実はうちの兄も……」「私の甥も……」と、家族や親せきに同じ状況の人がいるという知人が続出したのは驚きだった。80代の親が50代の子どもを養う「8050問題」が深刻化している今、どんなサポートが必要とされているのか、大人の引きこもりのリアルを母親の目線でリポートする。

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■    顔を見ないまま10年間同じ屋根の下に

 Mさん(女性、66歳)の息子は、中学1年のときに不登校がきっかけで引きこもり気味になった。息子が22歳のときから10年間、一切姿を見ないまま同居していた。

 息子は日中、2階の部屋に閉じこもり、部屋を出て動き回るのは夜だけ。家族が寝静まったころに出てきて、食事をしたり入浴したりしていた。息子は、洋服は“着たきり雀″で、下着は自分で洗っているようだった。食事は冷蔵庫にある残りものなど。

 Mさんが「おかずあるから、食べてね」と声をかけても、食べていないことが多かった。のちにわかったことだが、息子は「働いていない自分は、ちゃんとしたものを食べてはいけない」と思っていたそうだ。焦げたトーストを、シンクの三角コーナーから拾って食べたこともあるという。

 最初のころMさん夫婦は「なぜ」と途方に暮れ、必死で息子を説得もしたが効果はなかった。Mさんは、地元の教育センターに相談に行ったり、心療内科でカウンセリングを受けさせたり、親のための勉強会にも通うなど、解決の糸口を探してあちこち奔走した。

「カウンセラーの方は『見守りましょう』と言うだけ。夫には『いつも一緒にいた母親の責任だ』と言われ、相談相手にはなってもらえませんでした」(Mさん)

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