(イラスト/今崎和広)
(イラスト/今崎和広)
『新「名医」の最新治療2020』より
『新「名医」の最新治療2020』より

 脳腫瘍は脳のがんと言われるが、多くは良性で、「脳がん」とは呼ばない。しかし、高齢化に伴い、悪性脳腫瘍が増えつつある。また、からだのがん細胞が血流に乗って脳転移するケースも増え、全体の患者数が増加しているという。週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』では、脳腫瘍の種類とその症状、治療法について専門医に取材した。

【データ】脳腫瘍かかりやすい性別や年代は?

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 頭蓋内には脳や神経、髄膜など、さまざまな組織がある。これらの組織にできる腫瘍のことを、総称して脳腫瘍という。脳腫瘍には大きく分けて、原発性と転移性の2種類がある。

 原発性脳腫瘍は、頭蓋内の組織から発生した腫瘍だ。良性と悪性があり、良性脳腫瘍は脳を覆う髄膜や下垂体、神経など脳以外にできるもので、髄膜腫や下垂体腺腫、神経鞘腫(聴神経腫瘍)などの種類がある。また悪性脳腫瘍は、脳そのものにできるもので、神経膠腫(グリオーマ)や中枢神経系原発悪性リンパ腫などがある。

 脳腫瘍のうち75%は良性であり、手術ですべて摘出できれば再発もなく治癒するものも多い。腫瘍によっては、経過観察で済むものもある。しかし全体の約25%は悪性で、進行が速く再発率も高い。神経膠腫の一種で最も悪性度の高い膠芽腫は、5年生存率が約16%だ。2016年のがん統計によれば、悪性脳腫瘍の年間患者数は約6千人である。

 一方、転移性脳腫瘍は、脳以外のからだにできたがんから、がん細胞が血流に乗って脳に到達し、転移したものだ。がん患者の約10%が脳転移を起こすと言われている。年間のがん罹患者数は約100万人なので、転移性脳腫瘍の患者数は10万人を超える計算になり、原発性脳腫瘍の患者数と比較して圧倒的に多い。脳に転移する前の原発がんは肺がんが半数以上を占め、乳がん大腸がんと続く。

 国立がん研究センター中央病院脳脊髄腫瘍科の成田善孝医師は次のように話す。

「からだのがんが脳に転移した患者さんのうち約30%は、脳転移が原因で亡くなられています。つまり、からだのがんはコントロールできたけれども、脳の腫瘍がコントロールできずに亡くなるということですね」

 高齢化によるがん罹患率の上昇に伴い、近年は転移性脳腫瘍の患者も増加しているという。

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