■手術方法・成績を 事前によく確認

 一方で、手術のための傷の大きさや出血量、手術時間の長さ、心臓の一時停止などから、患者のからだの負担が大きくなりがちである。胸部大動脈瘤に対する人工血管置換術での死亡率は、一般的に2~5%とされている。

 これに対して山本医師は、次のように強調する。

病院によって手術時間や入院日数、出血量、死亡率は異なります。患者さんには、医療機関ごとの手術成績を事前によく確認することや、治療方法などについて、できれば複数のセカンドオピニオンをとることをおすすめしています」

 手術による死亡率を例にとると、川崎幸病院では、瘤の部位によっては1%未満に低下させている。その背景には、豊富な手術数のほか、安全で効果的な手術へのさまざまな取り組みを挙げることができる。

 たとえば、手術中に、体外循環装置(人工心肺)を使う方法・使わない方法、心臓を一時的に止める方法(完全体外循環法)・止めない方法(左心バイパス法)、体温を下げておこなう方法(低体温)・下げない方法(常温)など、多くの選択肢から、患者ごとに最適な方法を組み合わせている。

 ほかにも、血液がもれにくい血管の吻合方法を工夫したり、手術時に術者が患部をよく見えるように工夫したりして、出血量や合併症を抑え、手術時間を短縮させて、患者のからだへの負担を軽減させている。

■高齢でも体力があれば 手術可能な場合も

 大動脈瘤はほとんどの場合、破裂するまで無症状で進み、患者は「元気なのに……」と思いつつ治療を受けることになる。

 その治療に入るタイミングについて、人工血管置換術での治療を念頭に、下川医師は次のように話す。

「瘤が、大動脈の中でも危険性の低い部位にある場合は、破裂のおそれがある5センチを超えたら早めに手術をおすすめします」

 この場合の危険性とは、手術によって合併症が起こる危険性のことである。弓部大動脈からは脳へ向かう血管が枝分かれしており、弓部の瘤に対する手術によって脳梗塞を起こす場合がある。また、胸腹部の瘤の手術では、神経を障害して脊髄まひの危険性を伴う。

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