■症状の悪化を抑え 生活の質を保つ治療

 僧帽弁閉鎖不全症に対するマイトラクリップという治療も、TAVI同様、手術の危険性が高い人におこなうカテーテル治療だ。18年4月に保険適用となり、現在では全国約50病院で実施されている。今後さらなる普及が期待される。

 マイトラクリップは、足の付け根から、静脈を通じて、心臓の右の部屋である右心房へカテーテルを挿入し、心房中隔という壁を通して左心房へ入り、うまく閉まらなくなっている弁の付け根をクリップで挟んで閉じるようにする治療だ。

 75歳以上で心機能が低下していたり、過去に心臓手術をしたことがあったり、呼吸器機能や肝機能が悪いなど他の病気を持っていたりする人が適応となる。

「最新のデータでは生存率を延ばすことも証明され、さらに注目を集めています」(同)

 ただし、マイトラクリップは僧帽弁手術として、一般的な僧帽弁形成術ほど十分な改善は得にくい。現段階では、手術リスクの高い患者に対しておこなう治療として位置づけられている。

「症状の悪化を抑え、心不全の進行を防ぐために有効な治療です。手術リスクが高く、保存的な治療を選択せざるを得なかった人には特に適している治療と言えると思います」(高見澤医師)

 今後、カテーテル治療は、右心房の出口にある三尖弁の治療においても期待が高まっているという。

「三尖弁単独の病気は、症状が出にくく、また症状が出現したときには手遅れであることも多く、なかなか手術に踏み切れないのが現状でした。しかし、低侵襲のカテーテル治療であれば、治療を受けようと考える患者さんも増えると思います」(出雲医師)

 なお、心臓弁膜症の治療も含む心臓手術や心カテーテル治療に関して、週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』では、全国の病院に対して独自に調査をおこない、病院から回答を得た結果をもとに、手術数の多い病院をランキングにして掲載している。同ムックの手術数ランキングの一部は特設サイトで無料公開。

手術数でわかるいい病院
https://dot.asahi.com/goodhospital/

(文・伊波達也)

≪取材協力≫
聖マリアンナ医科大学病院 循環器内科准教授 出雲昌樹医師
榊原記念病院 循環器内科部長 高見澤 格医師

※週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』より