(イラスト/今崎和広)
(イラスト/今崎和広)
『新「名医」の最新治療2020』より
『新「名医」の最新治療2020』より

 心臓の弁に障害が起きて、血液の流れが悪くなる心臓弁膜症。高齢者に多く発症し、加齢による衰えと思っているうちに少しずつ進行する。重症化すると心不全を引き起こすため、早期発見と適切なタイミングの治療が重要だ。週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』では、気づきにくい心臓弁膜症の予兆や、治療方法の選択肢について、専門医に取材した。

【データ】心臓弁膜症かかりやすい性別や年代は?

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 心臓はポンプのように休むことなく収縮と拡張をくり返しており、肺から送られてきた血液を全身へ送り出している。そして全身から戻ってきた血液を肺へ戻すといった、人間が生きていくために必要不可欠な、一方通行の血液循環を保ち続けている。

 そのために重要な役割を果たしているのが、心臓にある四つの部屋の出口にあり、扉の役割となる弁だ。この弁が何らかの原因で、狭くなったり、隙間が空いたりして、血液のスムーズな循環を妨げる病気が、心臓弁膜症だ。

 全身へ血液を送り出す役割を果たす心臓の左側の部屋、左心房と左心室の出口にあるそれぞれの弁、僧帽弁と大動脈弁に起こる病気が多い。症状が進むと心臓の機能が低下して、心不全になるなど命に関わる場合がある。心不全の重症度を評価するNYHA心機能分類で一番悪いとされるIV期と診断されると、安静にしていても息苦しさなどの症状が出るようになり、2年生存率は約50%となる。

 四つある弁のいずれも狭窄と閉鎖不全を発症するが、特に多いのが僧帽弁閉鎖不全症と大動脈弁狭窄症だ。

 僧帽弁閉鎖不全症では、弁がきちんと閉まらないため、左心房から左心室へ送る血液が逆流してしまう。

■自覚症状が少なく 病気が進行しやすい

 一方、大動脈弁狭窄症は、大動脈弁にカルシウムが沈着し石灰化が起こり、弁が狭くなることによって、全身へ血液が送り出しにくくなり、心臓にかなりの負担がかかることになる。
「心臓弁膜症がやっかいなのは、早期の場合は狭心症のような胸痛がないなど、明らかな自覚症状に乏しいことです。歩くと息があがる、疲れやすいという症状はあるものの、多くの人が年をとったせいだと思い、そのままやり過ごし、病気を進行させてしまうのです」

 そう話すのは、東京ベイ・浦安市川医療センターハートセンター長の渡辺弘之医師だ。テレビなどで見かける、心臓弁膜症のCMの監修にも関わっており、65歳を過ぎるころになったら、単なる年齢による衰えと片づけないで、きちんと検査を受けるべきだと渡辺医師は強くすすめる。

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